謎のティーンガールその2

※3話 「清楚と汚濁 -Queen not a princess-」より


「随分かわいらしい子たちとデートしているんだね。」

「っ!?」

「こんにちは、アンディー・ヒノミヤ。」


背後から掛けられた声に振り返ると、声質に似合わぬ無機質な瞳が俺を見ていた。

欧州の某国で出会った少女だ。


「お前は…!この間の…!!兵部に襲われ…ふぐっ!」


白く瞬く瞳が一直線に…涙目で俺を睨みつけてくる。
…って、なんでこいつ真っ赤になってんだ!?

しかもこいつの念動力のせいか、口が塞がれて喋れねぇ…!


「そ、それ以上喋ったら、鼻も塞ぐからね…!!」

「(何すんだ…!外せ!!)」

「君が変なこと言うからだろ!?…大人しくするなら、外してあげる。」

「(わかった!わかったから、離せ!)」


俺が勢いよく頷くと、若干顔は赤いが、幾分か落ち着きを取り戻したらしく、念動力が解除される。

視線は鋭いままだが。


「次、その話したら、ほんとに鼻も一緒に塞ぐからね!…ほんと!あの後大変だったんだから…!!」

「っ…はぁ…っぁ…。(こいつ…、俺の思考を…)」

「もちろんわかるよ。…アンディ・ヒノミヤ。今、君が何を考えいるか…。そして、何故パンドラに転がり込んだのかもね。」


距離を詰めて、懐から銃を取り出し、目の前の少女の腹へと銃口を突きつける。

銃口を突きつけられても、少女の余裕は崩れない。
下から俺を見上げてくる顔には、恐れなど少しも浮かんじゃいない。

むしろ、ほのかに微笑む姿に俺の喉が鳴った。情けないが、ティーンの少女に気圧されていた。


「撃てば?…ただし、君にとってはあんまり良い結果は訪れないと思うけど。」

「…なんだと。」

「検討ついてるんだろう?僕が誰なのか。」


苗字 名前────
兵部京介、蕾見不二子の幼馴染。
超度7の予知能力と催眠能力、超度6〜5の念動能力、瞬間移動能力、接触感応能力、精神感応能力、生体コントロール能力を保持した複合能力者。

幼い頃、超能力のせいで村から迫害されていたところを兵部によって保護される。
蕾見伯爵の元で、蕾見不二子・兵部京介と共に育つ。
兵部京介と蕾見不二子が日本の超常能力特務部隊へと入隊した後に、ドクイツ帝国と日本が共同で発足した超能力研究所に協力。
一度は処分が決定、実行されるが「なんらかの能力」によって再生、幼児化。
日本政府の諜報員として活躍、バベル発足後は蕾見不二子監視下の元、ザ・チルドレンに所属。

見た目はティーンの女子中学生だが、実年齢は兵部や蕾見と同じくらいだ。


潜入前に頭に叩き込んだ内容が脳裏に浮かぶ。

少女──苗字は更に口角を上げる。
その表情がまたしても兵部の野郎と被って──あいつも俺に何かする時こんな笑い方をしていた───少し腹が立った。


「僕が撃たれたら、バベル…日本政府は黙ってないだろうねぇ。京介はどうだろう?僕が銃殺されたら、真相を解明しようとするかも…。」

「…っ。」


銃口がわずかにブレる。

話し方が兵部に似ているのもあって、腹立たしさが増すが、苗字の言っていることは何も間違っていなかった。

俺はパンドラに潜入してからまだ、何も達成していない。
目立つようなことをすると不利になるのは明らかだ。


「怪しまれる要因を増やしたくないだろう?」

「…なんの話だ。」

「僕の能力がわかるなら、誤魔化しても無駄ってことがわかると思うんだけど。」

「…何が言いたい。」

「別に。僕はただ……君がしていることは、目の前の小さな幸せのために、本当に大事な幸せを無くすことになるって言ってやりたかっただけだよ…。」


苗字の顔には、後悔したような悲しんでいるような哀れんでいるような…一言では言い表せない感情が浮かんでいた。

俺はこいつの経歴は知っているが、何故そんな顔をするのか、全く理解できない。
…なんで、そんな顔…してんだよ…。


「…。」

「「あの人」の言葉は毒だ。」


瞬きの間に、突き刺さるような視線に戻った苗字に、下がりかけた銃口をまた定める。


「…?「あの人」…?」

「…簡単に信じちゃいけない。…今ならまだ、失わずに済む。」

「おま…え…」


なんで、そんな辛そうな顔して笑うんだ…。

思わず下ろしてしまった銃に、苗字は困ったように笑った。


「あ、ユウギリと王女どっか行っちゃいそう。」

「なにぃ!?」


思わず背後を振り返るが、相変わらずユウギリと王女サマは店前で楽しそうに商品を眺めていた。


「ってか、なんでお前はモナーク王国…に…って、いねーしよ…。」


先ほどまで自分の側にいたはずの苗字は、消していた。 2020.06.25

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