とある夫婦の1日 朝
『おはようございます…』
寝室の扉をそっと開けて中に入り込めば、まだカーテンは全て閉まったままだった。その為に部屋は薄暗く、彼の規則的な呼吸音以外聞こえない。彼を起こさないようにゆっくりと近づいて、彼の顔を覗き込む。どうやら彼はまだぐっすり眠っているようだ。履いていたスリッパを脱いで体勢を整える。それから大きく深呼吸をして心の準備。
ーよし、今日もいける!
床を思いっきり蹴り、ベッドで未だに夢の中の彼に飛びつく。うぅと彼から唸るような声が聞こえたけれど毎度のことなので気にしない。
『グールース!起ーきーてー!』
1番上の掛け布団を捲ると、恨めしそうな顔でこちらを見上げる彼。
「ステラ…いつも言っていると思うのですが、その起こし方はやめてくれませんか?心臓がいくつあっても足りない、」
『ごめんなさい。でも、私ね。この方法以外で貴方を起こす方法が思いつかなくて』
「…分かった。この件についてはあとで相談しましょうか」
『うん。了解』
彼の頭が覚醒してきたところで、私はベッドからひょいと降りて窓際に足を進める。それから、ジャッと音を鳴り響かせて勢いよくカーテンを開ければ明るい光が部屋に差し込む。
今日は天気もいいことだし、素敵な日になりそうね。
カーテンを留めて後ろを振り返れば、彼はワイシャツのボタンを留めている最中だった。
『お手伝いしましょうか?』
「必要ありませんよ。もう終わります」
そう言って手首のボタンを留める彼。誰にも言ったことはないのだけど、彼のボタンを留める姿が私は好きだったりする。だって、すごくかっこいいんだもの。
『今朝もコーヒーでいいかしら?』
「お願いします」
了解、と返事をして朝食の準備をしに行こうとすると、後ろから名前を呼ばれたので彼の方へ振り返る。やっぱり今朝はコーヒーな気分じゃない、とか?
『なーに?』
「おはようございます」
いつの間にか近くにいた彼に、額に唇を落とされる。時間にして、それは一瞬の出来事。だけど私はこの一瞬が大好きで
『グルス、おはよう』
この一瞬は、私を笑顔にしてくれる彼の素敵な魔法だと思うのです。
とある夫婦の朝
「そういえば、今朝ははやく家を出るって言ってませんでしたか?」
手元の新聞に目を通しながらそんなことを思い出す。
『あ…忘れてた』
「…はぁ。片付けはやっておきますから貴女ははやく行きなさい」
『う、うん!』
彼女はそう言うと、残りのパンを口いっぱいに詰め込んだ。それから制服の上着を羽織って、カバンを掴むと玄関へ走った。
「忘れ物はありませんか?」
『ない、はず!』
鞄の中をガサゴソと確認をする彼女。鞄の中に大量のお菓子らしきものを見つけてしまったような気がするけれど、見なかったことにする。
『いってきます!』
「いってらっしゃい。気をつけて」
『あ、』
扉を少し開けたところで彼女は何かを思い出したように動きが止まる。
「何かありました?」
『行ってきますのキスを忘れるところだった』
グイッとネクタイを引っ張られたかと思えば、頬に柔らかい感触。彼女を見れば満足そうな顔をしている。
『今度こそ、行ってきます』
「えぇ。いってらっしゃい」
今度こそ、手を振りながら家を出て行く彼女。ガチャ、と扉が閉まると同時に、先ほど彼女がキスをした場所に手を伸ばす。
「唇では、ないんですね」
彼女の可愛らしい行動に思わず笑みが溢れる。
玄関先にある時計を見ればもうすぐ自分も家を出なければいけない時間に近づいていた。
「おっと。はやく片付けてしまわないと」
そう言うや否や、私は急ぎ足でキッチンへと戻った。
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