*アンソロ提出夢小説(波多野/D課)
皐月様、きの様、じゃこ様主催の夢小説・イラストアンソロジー「泡沫/うたかた」に提出させていただいた夢小説です。
一定期間経過したのでWEB公開させていただきます。
お相手:波多野(D課設定)
タイトル;『紆余曲折ありまして。』
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1
「波多野の馬鹿! 大切な記念日を忘れるとか信じられない・・・・・・馬鹿馬鹿バーカ! そうは思いませんか? 実井さん!」
「まぁ、そうですね。今回は、恋人との大切な記念日を忘れていた波多野さんが悪いかと」
「ですよね!? 実井さんもそう思いますよね!?」
「えぇ」
「・・・・・・はぁ。私だけ楽しみにしてたとか馬鹿みたい。あー、もう! なんかイライラしてきた」
そう言ってテーブルの上のカクテルを飲み干し、ドンッと音を立ててグラスを置く彼女。酔いが回ってきたのか、その顔はほんのりと赤くなっている。
彼女の隣に座る実井は、グラスが空いたのを確認するとすぐに店員に追加を頼んだ。彼女に何も聞かずに問答無用で度数高めのカクテルを注文するあたり、実井は少しでも早く彼女を酔い潰して帰りたいのだろう。
──面倒な人間は、さっさと酔い潰してしまいましょう。
彼女が少し席を離れた際に、実井がそんなことを笑顔でさらりと言い放っていたのを思い出す。
「な、なぁ。三好」
「なんですか? 佐久間さん」
「あれは大丈夫なのか? かなりペースが速い気がするのだが」
僕の隣に座る佐久間さんが心配そうに、正面に座る彼女と実井を見る。実井に関しては全く心配ないが、彼女に関してはっきり言えば大丈夫ではない。普段からあまり酒は飲まないと言っていたし、今だってカクテル二杯目であの有様だ。普段の温厚な性格の彼女しか見たことのない佐久間さんが心配するのも無理はない。
「大丈夫ですよ。そのうち彼女には波多野が迎えに来ますから」
「そ、そうか。それならいいのだが・・・・・・」
佐久間さんはそう言うと目の前にあった枝豆に手を伸ばした。
佐久間さんも可哀想に。D課に異動して早々に、こんなことに巻き込まれるなんて。
グラスを傾けながら、テーブルに置いたスマホの画面に目を向けるもメッセージの受信を知らせる通知は何も表示されない。
「毎回巻き込まれるこっちの身にもなって欲しいものですね」
「三好?」
「佐久間さん、すみません。少し電話をしてきます」
「あぁ」
相変わらず佐久間さんは枝豆を食べ続けている。他の料理も食べればいいのに。
人気の少ない静かな場所を見つけ、ポケットからスマホを取り出す。通話履歴から目的の人物を探し出すと、僕は画面をタッチして相手を呼び出す。
「神永、そちらの状況はどうですか? ────」
2
「さーて、波多野くん。詳しい話を聞かせてもらおうか」
デスクチェアに乗ってスーッと波多野の机まで移動すると、ひとり黙々と書類を書いていた波多野は顔を引き攣らせて俺を見た。その顔には未だうっすらと赤い手形が残っている。
「はぁ? 俺、忙しいんだけど」
「なになに? 今日の波多野の話? 俺も聞きたい」
「げっ!? なんで甘利まで来るんだよ!」
デスクチェアの背凭れに両腕を乗せて、こちらに移動してくる甘利。田崎も気になるらしく、パソコンの陰から顔を覗かせている。
波多野は、誰かこいつらをどうにかしろと言わんばかりに周りを見回しているが、残念ながら頼みの綱である結城課長も福本も小田切も捜査の為、不在だ。それを理解した波多野は諦めたのか、不貞腐れたように机に肘をついて俺を見上げた。
◆
「つまり、波多野は記念日を忘れていたわけではないんだろ? どうして『忘れてた』なんて言ったんだ」
「いや、それは・・・・・・」
田崎の言葉に何故か口ごもる波多野。
そんなことを言わなかったら、彼女からビンタされるようなこともなかっただろうに。何より、俺たちが今日一日、波多野と彼女の間に流れる不穏な空気に気を使いながら仕事をしなければいけない状況にはならなかったはずだ。
「やっぱり浮気?」
「甘利、」
「痛っ! 田崎、今のすごく痛かったんだけど!?」
「空気を読め。空気を」
空気を読もうとしない甘利の頭を田崎が近くに置いてあったファイルの角で殴った。
──うわ、あれは痛い。
そんな二人を横目で見た後、俺は波多野へと視線を戻す。波多野は未だに言うべきかどうか悩んでいるように見えた。
「波多野?」
「あいつには絶対、絶対言うなよ」
あいつとは彼女のことだろう。波多野の言葉に田崎と甘利はぴたりと言い争いをやめ、話を聞こうと身を乗り出す。
覚悟を決めて話し始めた波多野の話を聞き終えると、ポケットの中のスマホが震えた。画面に表示された名前を見て、俺は口元に笑みを浮かべる。
「三好か。ちょうど今、電話しようと思っていたところだったんだが────」
3
「俺が書類溜めてるのを分かってて迎えに来いって言いやがって・・・・・・三好のやつ、後で覚えてろよ」
よいしょ、と背中にいる彼女を落とさないように背負いなおす。彼女は実井にかなり飲まされたようで、俺が迎えに行ったときにはすでに夢の中だった。
「まったく。お前も、人の気も知らないで気持ち良さそうに寝やがって」
背後から彼女の規則的な寝息が聞こえてくる。ただそれだけ、それだけのことなのにひどく安心している自分がいた。
彼女が、迎えが必要なほど酔い潰れていると知ったのは神永・甘利・田崎による取り調べ(のようなもの)が終わった後だった。
突然、神永からスマホを渡されたかと思えば、電話の相手は三好だった。
「もしもし?」
「波多野ですか。今すぐ、いつもの店まで迎えに来てください」
「は? 迎え? 俺、三好の送迎係になった覚えはないんだけど」
「僕じゃなくて、彼女のですよ。出来るだけ早く来てくださいね。頼みましたよ」
言いたいことだけ言い終えると、三好は容赦なく電話を切った。
目の前には書きかけの書類。隣には意味ありげな笑みを浮かべる神永。
──この書類は明日の朝、はやく来て書き上げれば最悪間に合うか。そうと決まれば、彼女を迎えに行かなければ。
俺は急いで机の上を片付け、鞄を掴んでD課を飛び出した。そして、彼女を三好・実井・佐久間さんから引き取って現在に至るというわけだ。
背中の彼女は未だに深い眠りの中。だからこそ、今なら素直に何でも言える気がした。
「忘れるわけないだろ。お前との記念日なのに」
溢れた言葉は夜の静寂に中に溶けるように消えていく。
「しかも、その日にプロポーズしようって決めてたってのに」
それ、本当?」
突然、後ろから聞こえた声にギョッとする。
「い、いつから聞いてた?」
「『忘れるわけないだろ』のところから」
「最悪、」
彼女を背中に背負っていなかったら、しゃがみ込みたいくらい恥ずかしい。
そんな俺の心境を余所に、彼女は両腕を俺の首にまわして更にぎゅっと密着する。こんな風に甘えてくるなんて、彼女にしては珍しい。
「ねぇ、波多野」
「なに?」
「プロポーズしてくれる予定だったの?」
「そう。サプライズで驚かせる予定だったの」
そう言うと暫しの間、2人の間に沈黙が流れる。その沈黙を破ったのは彼女だった。
「私、凄く我儘だよ」
「知ってる」
「素直じゃないし、可愛くないし、掃除も料理も上手じゃない」
「それも知ってる」
「私なんかで、波多野はいいの?」
「いいの。俺はお前じゃなきゃダメなの」
他の誰でもない君が、俺の隣に居てくれないと意味がない。
「だから、俺と結婚してくれませんか?」
振り返って後ろにいる彼女を見上げれば、その瞳には涙が溢れているように見えた。
彼女は俺と目が合うと、一瞬で俺の背中に隠れてぐりぐりと頭を押しつける。地味に痛い。
「よろしく、お願いします」
そう言う彼女の声は、泣いているのか微かに震えている。
「なんでお前、泣いてんだよ」
「煩い! 嬉しくて泣いてるの!」
「俺の所為?」
「波多野の所為! ちゃんと責任とってよね」
「はいはい、分かってますよ」
もちろんこの責任は取るさ、最後の最期まで。
死が二人を分かつまで。
紆余曲折ありまして。
(この度、結婚することになりました)
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