いつか王子様が 3
お兄ちゃんがフィギュアスケートの選手だからといって、その妹も上手いとは限らないということを私は全世界の皆様に知っておいてもらいたい。
「ほら、リセ。一緒に滑ろう」
アイスリンクの上でこちらに手を伸ばす彼。
さすが世界一モテる男。その姿はまさに王子様。彼に手を差し出されて、手を取らない女の子なんてこの世にいるのだろうか。いや…ここにいる。この私、勝生理瀬である。但しこれには理由がある。
『いや…本当に私、無理なので』
子鹿のように足を震わせながら、意地でも手摺から離れようとしない私。
既に気がついた方もいらっしゃるかと思いますが、全くといっていい程スケートができないのです。
「大丈夫大丈夫。今、ここには俺しかいないし」
おいで、と今度は両手を広げてにこにこと待ち構える生きる伝説。
ー貴方だから問題なんです!
喉から出掛けた言葉をなんとか飲み込む。憧れの人の前で盛大にズッコケてこの先、生きて行けるほど私の心は強くない。だから全力でここまで拒否し続けてきたのに、彼は全く聞く耳を持たず、私をアイスリンクまで引き摺ってきたのだ。
「リセ、」
名前を呼ばれ、顔を上げる。
あれ?こんなことが前にもあったような気がする。
「大丈夫。俺がちゃんと支えてあげるから」
『転んでも笑いませんか?』
「笑ったりなんかしないよ」
ね?と微笑まれてしまったら何も言えなくなってしまう。
『お、お願いします』
手摺を掴んでいた手をゆっくり離す。彼に手を伸ばせば、そっと握られる手。
ーわぁぁ!憧れのヴィクトルに手を!手を握ってもらってる!手が大きいし、指先とっても綺麗!
そんなことを思いながら手摺に残ったもう片方の手を離そうとすると、突然腰にまわされた腕にグイッと引き寄せられた。
『ぐぅ、え!?』
ちょっと待って。今何が起きている?
「よし。それじゃあ、滑ろうか」
後ろを見上げれば楽しそうに笑う彼。
本当にちょっと待って欲しい。これは私が想像していたのと全く違う。私が想像していたのは彼に両手を引いてもらいながら滑る姿であって、こんなに彼に接近されるなんて想定の範囲外。
お兄ちゃんが言う通り、彼は人をびっくりさせる天才だった。
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