秘密の花園 5
カーテンの隙間から差し込んでくる光で目が覚めて、窓を開ければこの間までとは違う優しい暖かい空気が私の髪を揺らした。しばらく朝独特の空気を堪能していると次第に瞼が重くなってくる。そんな少しでも油断したら二度寝してしまいそうな自分の顔を私は両手でばしばしと叩いて気合いを入れた。
危ない危ない。
リドルの見本にならなきゃいけないのに、私がぐーたらな生活をしてたら示しがつかないじゃないか。サイドテーブルに置いてある時計を見ればいつもと変わらぬ時間を指している。
よかった。これでリドルに弱みを握られることはないだろう。
クローゼットから適当に服をひっぱり出して、鏡の前でいつの間にか長くなった髪をまとめる。いつも身支度を整えながら聞いているラジオの天気予報によれば、どうやら今日は洗濯日和らしい。

朝ごはんを作るのはもちろん私の仕事。そして、毎日朝に弱いリドルを叩き起こすのも私の仕事だ。リドルが朝に弱いということは一緒に住むようになってから知った。意外だったので前に一度からかったことがあるのだが、その後のは言わなくても分かるだろう。不機嫌そうな表情がさらに不機嫌なり、一日中リドルから嫌味毒舌の攻撃を受け続けた私の硝子の心は粉々に打ち砕かれる寸前まで追い込まれた。それ以来、私はリドルの朝の弱さでからかうことは一生しないと固く心に誓った。しかし、それ以外のことではからかっても大丈夫そうだったので地味にからかっている。リドルの地雷がどこにあるかを全て把握しきれていないから恐る恐るではあるが。
おっと失礼。話が逸れてしまったね。
そういった理由で我が家の朝食はとても静かだ。たまに話すこともあるけれど、私が今日の予定を話すのに対してリドルがぼーっとしながら(たぶん私の話に興味がない)たまに頷くくらい。そういえば、頷いてくれるようになったのは最近になってからかもしれない。
朝食が食べた後は基本的に自由行動。自由とは言っても、私は実験室に籠って仕事を。リドルは私の書斎に籠って本を読んでることがほとんど。だから今日もリドルはてっきり書斎に籠るものだと思っていた。

「リア、」
『ん?どうしたのリドル。読む本でもなくなったのかい?』
「違う」
『それじゃ、どうしたんだい?』
「今日は外にいるから」
『外?あ、うん。分かった。気をつけて、』

そう言うとリドルは部屋から出て行った。珍しいこともあるものだ、と思いながら、私も久しぶりにシーツやら普段使っていないタオルを洗濯するためにキッチンを後にした。

洗濯が終わり、綺麗になった大量の洗濯物を洗濯籠に押し込んで外に出るとまさに「快晴」という言葉がぴったりの綺麗な青空が広がっていた。マグルの天気予報もなかなか侮れない。庭にある木にロープを張って洗濯物をひとつひとつ干していく。そういえば、前にリドルに「魔法でやればいいのに」と言われたことを思い出した。あのときリドルに何て言ったんだっけ、なんて思い出しているうちに洗濯籠の中の洗濯物は最後のひとつになっていた。

最後のそれを洗濯バサミで留めたあとふぅ、とため息を吐く。まわりを見ればたくさんの洗濯物が春の優しい風に靡いていて、ちょっとした達成感を感じた。それじゃあ家の中に戻るかと置いていた洗濯籠に手を伸ばしたとき、私の手が届く前に洗濯籠は何者かの手によって視界から消えた。何事かと顔を上げるとリドルがどこかそわそわしながら私の前に立っていた。

リドルがそわそわしているなんてこれまた珍しい。

とりあえずそんな彼の出方をうかがっていると、今まで後ろに隠されていた右手がゆっくりと姿を現した。その手には1輪の花が握られていて、私の前に差し出された。突然のことに何事かと思い、心当たりを探すが全然心当たりがない。そんな固まったままの私に痺れを切らしたのかリドルは面倒臭そうに花を押しつけた。

『リ、リドル?』
「...それ、あげる」
『え?私が貰ってもいいのかい?』
「だからそう言ってるんだけど。嫌なら別にいいよ。庭に落ちてた花を拾ってきただけだし」
『ふふ、ありがとうリドル。ありがたく頂くよ』
「...好きにすれば」
『まさかリドルからもらえるなんて思ってもいなかったよ』
「絶対、今日が母の日だからとか関係ないから」
『はいはい』
「リア、その顔ムカつくんだけど」


ある晴れた日のにて


『ねぇ、リドル』
「なに」
『ピンクのカーネーションの花言葉を知っているかい?』
「...さぁ。知らない」
『ふーん。そっか
(この前、花言葉に関する本を読んでいた君が知らないわけないのにね)』
7/7