秘密の花園 4
学校に入学するとなると準備しなければならないものがたくさんあって大変だ、と愚痴を零すマグルの奥様方の会話を散歩のときにちらりと聞いたことがある。そのときは特に気にも留めなかったのだが、今になってようやくマグルの奥様方が言っていたことが分かった気がする。
今にも崩れ落ちそうな買い物袋を抱え直し、私はローブのポケットから1枚の紙を取り出して再び目を通した。

『えーっと。制服関係はこれで全部揃った。杖も買ったから…あとは教科書か』

大鍋、薬瓶、望遠鏡に真鍮製のはかりは我が家に新品同様の物がわんさかと転がっているので、リドルには(我が家の経済的問題で)そちらの方を使ってもらうことにした。最初は嫌がられるのではないかと心配していたのだが珍しくリドルは文句を言うこともなく、すんなり承諾してくれたのでとても助かった。
基本呪文集、魔法史に魔法論。変身術入門に魔法薬調合法。これから購入しなければならない本の名前を確認しているとローブの裾をぐいぐいと引っ張られる感覚がした。もちろんそんなことをする人物は1人しかいない。手元の紙から視線を移動させると、その人物はじっと何かを訴えるように私を見上げていた。

『どうしたんだい、リドル。疲れたかい?』
「まだ疲れてない」

疲れてないのかよ、と心の中で突っ込む。それなら先程の何かを訴えるかのような視線はなんだったのか。まさか通行人の皆様に訴えていたわけではないだろう。こんなところで私を誘拐犯に仕立て上げるのだけは勘弁してくださいリドル様。

「ねぇ、リア」
『なんだい?』
「あそこに行ってみたい」
『あそこ?』

リドルが目をキラキラさせながら指差す方を見た私は思わず顔を引き攣らせた。

『(げっ!?ノクターン横丁)』

ノクターン横丁には私もたまに用事があって行ってはいるが、さすがにホグワーツにすら入学していないリドルを連れていくのは教育上悪い以外の何物でもない。どうやって諦めさせるか悩みながらちらっとリドルを盗み見ると、興味津々な様子でノクターン横丁の方を見つめていた。

「行きたい」
『今日は無理だよ。リドル』
「少し見るだけでいいから」

この子は私がそのクリクリとした目で見上げられるのが弱いことを知ってやっているのだろうか。そうだとしたらなんて恐ろしい。何時にないリドルの粘りに思わず『いいよ』と言ってしまいそうになるのをなんとか堪える。
あぁ、もう。
リドルがノクターン横丁に行くのを阻止するために私が出来ることはこれくらいしか浮かばない。後々リドルに怒られそうな気もするけれど、その時は君を思っての行動だと言ってやろう。

『リドル。よく聞いて』
「なに」

私は抱えていた荷物を落とさないように気をつけながらリドルの目線に合わせるようにしゃがみこんだ。突然の私の行動と真面目な口調に驚いたのかリドルは大人しく私の次の言葉を待っているようだった。
よし。ここまでは作戦通り。

『ノクターン横丁はね…』
「ノクターン横丁は?」

再びリドルが息を呑む。十分すぎるほどの溜めをつくってから、私はゆっくりと口を開いた。


ダイアゴン横丁の片隅にて


『18歳にならないと入れない場所なんだ』
「そうなの?」
『そうなんだよ。だから、リドルが18歳になってから行くといい』
「わかった。(後でリアがいないときに行こう)」
『それじゃあ、教科書を買いにいこうか。
(いつもよりやけに聞き分けが良いのが気になる)』
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