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人生そんなに甘くない。

ある事件をきっかけに、私はとあるイタリアンマフィアの後継者候補だと知った。平穏とはかけ離れた生活を送るであろう未来のため、五歳になったばかりの私は平々凡々生きることをモットーに日々を送ることを決意する。

あれから約十年。危険と隣り合わせながらも平和な日常を送っていた私に人生最大のピンチが訪れる。

ことは暇潰しで見ていたテレビの臨時ニュースから始まる。

「月が!!爆発して七割方蒸発しました!!我々はもう一生三日月しか見ることができないのです!!」

そう告げるニュースキャスターを見て私は不思議なこともあるもんだねと住み込みで弟の家庭教師をしている先生と話した。同じくニュースを見ていた弟とその友達達はありえねー!!だとかあれは絶対宇宙人の仕業っすよ!とか騒いでて面白かった。

そこまでは良かった。

月のニュースから数週間。新学期に入ったばかりの頃、学校に登校するといきなりスーツを着た人がたくさん来たと思ったらどうだ。黄色いタコみたいな生物が入ってきて月を三日月にした犯人で、来年は地球も爆発させると言い出した。しかも私達の担任になるんだと。訳がわからず固まる私達にスーツの人...防衛省の烏間さんはおおよそ、これからのことを説明してくれた。

どうやら私達はこの自称地球人と名乗る先生を卒業するまでの間に暗殺しなければならないらしい。

せめて中学までは波風立てずに平穏に、平凡に暮らしていたいのに...どうしてその最後の年にこんなことになるのか、私は頭を抱えた。

◆  ◇  ◆

靴箱で靴を上履きに履き替えていると後ろから沢田さんと小さく呼ぶ声が聞こえた。振り返るとそこに見知った人の姿。

「渚じゃん。どうしたの?」

彼は潮田渚。私が通うここ、椚ヶ丘中学で三年間同じクラスの、私の数少ない知り合いの一人だ。
彼はおずおずと後ろ手に隠していたものを見せた。

「えっと、今日ホームルーム中にみんなで先生を暗殺しないかって話があって...」

そう言う彼の手には一丁の銃。標的ターゲットを殺す為の物。

「いつ?」

「日直の、僕の号令の後。」

「...わかった。いいよ。」

渚から銃を受け取ると中身の弾を確認する。彼は私の返事にほっと息を吐くとじゃあ、また後でと言って一足先に教室に入る。その姿を見送って一つ溜め息を吐いた。

「ホント...なんでこうなるの。」

こうなるまでの経緯を切に教えてほしい。説明は確かにされたが、あれはかなりボカされたものだろう。何か、何かが間違っている。そんな気がする。まあ下の下、現場担当である私達に詳細が教えられることはないだろうが。

そこまで考えて頭を振った。考えるだけ無駄だ。今の私が何を考えたって状況は変わらないのだ。
荷物を鞄に仕舞い教室へと足を向けた。