02

人生そんなに甘くない。

しんと静まる教室にペタンペタンと彼が近付く足音が聞こえた。その音が近付くにつれ教室を漂う緊張が少しずつ膨れていく。

ペタッ......

入り口の前で音は止まる。緊張はピークに達した。誰も動かない。ただ入り口を、その向こう側にいる者を見据えていた。静かに横に引かれる扉、年季の入った校舎の扉が音を鳴らす。やけに耳に付く音のように聞こえた。
柄にもなく緊張しているらしい。じっとりと手に汗が滲んでいる。手に持った物が滑って落ちないようにしっかりと握り直した。

真ん丸と丸い頭、服から覗く肌は黄色。背丈は優に2mを越えている彼は、またペタンペタンと足音を立てて私達の前に置かれた教壇へと歩いた。教壇に立つと持っていた名簿をそこに置き、三日月のように弧を描いた口から独特な声を出した。

「HRを始めます。日直の人は号令を!」

「...き、起立!!」

渚の号令で一斉に立ち上がった。狙いを定め、次の渚の礼を合図に26人の生徒が先生に引き金を引いた。

・ ・ ・

「遅刻なし。と...素晴らしい。先生とてもうれしいです。」

床一面に散らばったBB弾、何百、何千という弾が彼に向かって打たれた。あれだけの数が打たれれば当たって当然の筈だ。だがそこに彼は平然と立っていた。つまり誰も彼に当てることができなかったのだ。

彼は残念ですねぇ。と笑って殺す側である私達にアドバイスをした。そこで出た弾が本当に彼に効くのかと言うブーイングに対して実演でその威力を証明して見せた所でチャイムが鳴る。

「はい、沢田さん箒。」

「ありがと。」

渚に渡された箒で使用した弾を片付けに入る。
ふと外を見ると白昼ではあるが薄ぼんやりと三日月が見えた。彼の口と同じ形...見上げていると無償に腹が立ったので舌打ち一つ。隣で奥田さんがビクッと震えた。それに少し罪悪感を覚えたが気づかない振りをして箒を用具入れに戻した。

今日もまた憂鬱な一日が始まる。