閑話

堂々巡り。

奈々緒たちの班が大変な目にあっているとは露知らず。涼花は京都観光を楽しんでいた。好奇心の赴くままにあっちにふらふら、こっちにふらふら。気が付けばいなくなっている彼女を監視するため、寺坂がその役目を任された。

なぜ自分なのかと文句を言う寺坂に狭間は一番身長が高くて目立つからだと丸め込む。実際は寺坂の反応が面白いからだがそうとは言わない。

「あれ?涼花ちゃんは?」

「寺坂あとはよろしく。」

殺せんせーと合流してお土産探しをしている時も彼女は急にいなくなる。狭間に言われるままに探しに行く寺坂。ただ最初は悪態ばかりついていた寺坂も段々この状況に慣れてきた。

「おい。藤塚。」

「あ、寺坂さん!食べますか?」

かなり離れたところで試食品を食べている涼花を見つけた。声をかけると呑気に試食を差し出してくる彼女に溜め息を吐く。
寺坂が見つける先々で必ず彼女は何かを食べていた。だから食べ物があるところに行けば大概見つかる。

にしても食べ過ぎではないか。寺坂は思った。
いくら歩いてるとは言え涼花と原の食べっぷりは凄かった。学校でもかなりだがこの数時間でそれを上回る量を確実に食べている。原はともかく、涼花は細い。その細い体のどこに大量の食べ物が消えていくのか、甚だ疑問だ。

涼花は試食を食べて店員と話しそれを購入。一連を側で見ていた寺坂のもとへ小走りで駆け寄る。お待たせしました!と実に楽しそうに言う彼女に寺坂は素っ気なく行くぞとだけ言った。

「いつもすみません。」

へらっと笑っているがすまないと自覚があるならぜひ改めてもらいたい。これのせいでクラスで行動している以外は大体涼花と行動していて、寺坂はこの時間が少し苦手だった。いや、普段の涼花も苦手だった。なぜなら、

「*&¥◇★*$ΘΞ」

突然聞いた覚えのない言語が耳に入る。二人の男女が近付いてくるが何を言っているのかさっぱりだ。慌てる寺坂の腕にするっと涼花が腕を絡めてきた。そのせいで寺坂の顔は赤く染まる。これだ、これのせいだ。

寺坂は涼花が苦手だ。理由の一つは距離が近いから。そして最もは中学生男子には些か、いやかなり刺激が強すぎる体型のせいだ。今も絡められた腕にしっかりと大きなそれが当たっている。これが無自覚だから質が悪い。

京都に来てからと言うもの、彼女の容姿からか外国人によく声をかけられる。その度に彼女はこうして寺坂の腕を離さないのだ。腕を絡め上半身だけで相手を覗く。隠れるなら背中に隠れて顔を出すだけでもいいのに。

「寺坂さん。この近くに赤い門がたくさん並んでいる場所を知りませんか?」

「赤い門?」

ちょっと待ってくださいねと言って涼花は相手との会話に戻る。そう言えば彼女は一体何ヵ国語を話せるのだろうか。会話を聞いても何を話してるかわからないが毎回イントネーションや話し方が違う気がする。何言か話して彼女はこちらを見た。

「えっと、名前はわからないそうなんですが…山の中の階段があって、赤い門がたくさんあって…それを潜りながら登ると神聖な場所があるそうです。旅館で写真を見て道を教えてもらったそうなんですが迷ったみたいで...」

神聖な場所、日本で神聖な場所と言えば寺や神社、それに赤い門…神社で見る鳥居のことだろうか。そこまで考えて一つ心当たりがあったのでパンフレットを取り出し目的のものを見つけ、これか?と見せると彼女はそれを相手に見せる。相手の反応からして当たりのようだ。

「伏見稲荷大社ですか…へぇ、日本にはこんな場所もあるんですね。」

鳥居と緑のコントラストが美しい。その写真を見て涼花は感嘆の声を漏らす。

「自由行動の時に行く候補として出てたが…」

「そうでしたっけ?…あ!確かにそうですね!食べ物のことばかり考えてたから覚えてませんでした。」

羞恥で顔を赤らめる彼女の姿にまた溜め息を吐く。彼女の頭はどこまでも食べ物のことしか考えてないようだ。

「℃〓ΣΩΨλё刀H」

「ああ、★ΞΩ¥△ΨΩ◇」

女性の方が何かを言いそれに返答する。スマホを取り出し何やら操作した上で彼女はカバンから紙とペンを取り出し何かを書いた。
紙を渡しいくつか喋ったところで女性は涼花に抱き付きその頬にキスをする。涼花も当たり前のようにそれを返した。

「終わったのか?」

「はい!寺坂さんのお陰です。ありがとうございました。」

にこっと嬉しそうに彼女は笑う。

バイバイと手を振って男女と別れた。男女は去り際、寺坂にジェスチャーで何かを伝えてきたが寺坂にその意味は伝わらない。振り返った先にふざけたタコと班員たちのニヤニヤとした笑みを見てやっとその意味を理解するのだった。