ガムテープで拘束され連れて行かれた場所は荒んだバー。ダーツの的や割れたビンが散乱していた。
ゲラゲラと下卑な笑い声が響く。隣では同じく拘束された茅野ちゃんと神崎さんが車上で見せられた写真について話していた。その会話に不良のリーダー格が割り込む。彼は自分と仲間達でやった胸糞悪い武勇伝を聞かせた。
「最低ね。あんた達。」
「あ?」
「さっきから静かに聞いてればギャーギャーギャーギャー糞みたいな話しかしない。女の子に相手にしてほしかったらもうちょっとスマートな話でもできないの?」
うちの家庭教師も大概だが女性を口説くのは上手だ。私も揺らいだくらいに...て、話が違う。
私の言葉に明らかに怒りを見せるリーダー。手を出そうとする前に睨めばその手は止まる。知ってる?相手に気圧された時点であんた達の負けは確定してるんだ。
「...黙って聞いてればナメやがって。いいぜ、仲間が来る前に、先にあんたの相手をしてやるよ。」
「へーお兄さんが相手してくれるの?」
それじゃあ遠慮なくヤらせてもらいます。
腕の拘束を死ぬ気で破る。そう死ぬ気で、ビリビリに破かれたそれを見て不良たちは目を真ん丸に開いて驚いた。
「「「「ゴリラかっ!!」」」」
「誰がゴリラだ!!!!」
ふざけんな!誰がなんだって?!
腹癒せにリーダーを遠慮なく殴った。リーダーを捕まえれば有利になると思ったけど殴った影響で後ろに下がる。計画変更。すぐ近くの太った不良を捕まえて私達がされていたように後ろ手にさせる。
「よーし動くなよー。少しでも動いたらこの人の腕が大変なことになるからねー。」
無理な体勢にさせてるから少しでも動かしたら肩が外れちゃうよ。大変だね。
不良達は卑怯だなんだって騒ぐけど誰が卑怯なんだ?
「先に手を出してきたのはそっちだろ?それにあんた達も変わんないじゃんか。中学生相手に隠れて不意討ち、年上の高校生がやることなの?」
怒りに任せて腕を動かせば捕まった不良は苦しそうに呻き声を上げる。そうすれば隙を狙ってる仲間達は動きを止める。
「あんた達いろいろ好き勝手やって来たみたいね。いろいろ言いたい所だけどあんた達の頭に入るかわからないし、話すのも時間の無駄。だからこれだけは言わせてもらう。誰だってね、大なり小なりいろいろ抱えてんのよ。あんた達みたいに自由に生きたいけど何かに縛られて雁字搦めなヤツだっている…テメーの物差しで勝手に計んじゃねーよ!!」
後ろで沢田さんと私を呼ぶ声がした。
「私達は修学旅行に来てるの。友達とすぐ近くの遊び場に遊びに来てるんじゃないの。わかった?わかったらさっさとそこどいて。あ、その前に二人の拘束解いてね。」
私の話をわなわなと震えながら聞いていた彼らは逆上して手短にあった廃材を掴む。だが捕まっている仲間の腕が締め上げられあ、と言う声を聞けばこちらに手を出せないでいた。...............あ?
「テメェ...人質取ってるからっていい気になんなよ。」
おい!早くそいつから離れろ!とリーダーは叫ぶが捕まった不良はいいんだ。と呟いた。御生憎様、師匠に鍛えられてるお陰で一般男性でも抑えられるよ。死ぬ気でやってるってのもあるけど。...............いいんだ?無理だ。じゃなくて?
「いいんだこのままで...」
「お前まさか!」
もしかして俺も一緒に殴るんだみたいな?リーダーもはっと何かに気付いたみたいだし...え、ホントにやるの?仲間殴るの?止めてよ。可哀想じゃん。捕まえたの私だけど...
でも私の直感は危険だと警鐘を鳴らしていた。何か策があるのか、それとも別の何かがあるのか。警戒する私に彼は、
「...と、」
「うん?」
「もっと強くイタブッてください!!」
「へ?」
何々?今こいつなんて言った?甚振るって誰を?こいつを?私が?つまりこれはあれか?被虐性愛というやつか?
熱い熱を持った目で見つめられてひっと掠れた悲鳴が漏れた。ぞわりと全身に鳥肌が走る。
どうやら私、沢田奈々緒は彼の新しい扉を開いてしまったようです。
01
運がないのは昔から。