02

あの日

二年生に上がりたての、まだリボーン君が日本に来る前、お父さんが消えた。お母さんがお父さんの伝言をそのまま伝えるから弟は蒸発したと思ってる。でも私は知っていた。お父さんが本当は何をしにどこへ行ったのか、私だけが知っていた。

◆  ◇  ◆

ドサッと音を立て崩れ落ちる男を見てたまらず膝をつく。地面に頭が着くすれすれで受け止められ、私を受け止めた人物は心配そうに顔を伺う。

「ちょっと、体が痺れ、るだけ...だから、そんな顔しな...いで。」

「もうちょっとの我慢です。今解毒剤を持ってこさせますから...!!奈々緒先輩は安静にしてください!!」

私がそう言って安心させようとすると泣きじゃくりながら震える手で私の手を握った。その後すぐに小さな瓶が手渡され、それを飲むこと十数分、体は自由に動かせるようになる。

「奈々緒先輩本当に大丈夫ですか...?」

「もう大丈夫。いつもありがとね桃。」

当然ですよと胸を張る桃にいつも通りの指示を出す。ちゃんと病院に行ってくださいと言われ桃達と別れて一人で行こうとすると一人にすることに抵抗があった桃が着いていくと言った。
体の痺れは取れ一人でも大丈夫そうだ。桃もここの指示が残ってる。その数分後せめて誰か着いて来てもらえば良かったと後悔するのにそう言い聞かせ一人で向かった。

・ ・ ・

歩く度に頭が鈍い痛みが走る。今日一日ずっと不調を訴えていた痛みは天気から来る偏頭痛だと思っていた。
最初は少し痛むくらいの、ちょっとした頭痛のはずだった。それが今はまるで鐘の中に頭を入れて、誰かにそれを叩かれているようにガンガンと痛みが響く。体も火照ったように熱い。吐き気もする。これは本格的にまずい。

あと少しだからと自分の体に鞭打って歩を進める。そこで堪えきれず迫り上がってくるものを吐き出した。涙で視界は歪み足元は覚束なくなる。

寂しいと、熱で浮かされた頭でぼんやりと思った。そう考えるとああ今弱ってるんだなと冷静に考えることができる。こんな時はあいつに居てほしいなんて、それが無理だってわかってるのに願ってしまう。

誰かに呼ばれた気がして顔を上げる。道の先に誰もいるはずがないのにその先に願う相手がいる気がして、ゆっくりと体が傾くのに任せ目を閉じる。最後に感じたのは暖かな温もりだった。

・ ・ ・

目を覚ますと見たことのある天井が目に入り、しばらくしてここが病院だと気付いた。なんで病院にいるんだろうって思い返してみれば病院に行こうとしたところまで糸が解けるようにするすると思い出せる。だが病院に着いた記憶がない。そもそも途中で倒れたはずだ。
なんでと途切れるまでの記憶を手繰れば何か暖かなものに包まれたのを思い出した。今片手に感じているのと同じ温度。

「カル、マ...?」

まだ熱で怠く体を動かすのも億劫だ。視線だけを向けると見覚えのある赤色が目に入った。私の手に手を重ねベットに頭を伏せている。寝ているからか呼吸の度に体が上下に動くだけで呼んでも動かない。
手にかかる髪の毛がくすぐったくて動かすとさらりと流れた。綺麗だなと無意識のうちにそれを指に絡め撫でる。そこで何してるんだと我に返った。

そもそもなんで彼がここにいて私の横で寝てるのか、答えが出るのは簡単だった。
抱き止められたんだ。
そうわかれば自然と顔に熱が集まる。だってほら、まだ覚えているんだ。背中に回された腕の感触を、背負われたときの彼の背中を。

しばらく声にならない悲鳴を上げて手を離そうとするけれどその熱が恋しくなり握り直す。熱の熱さとは違う心地好い温度。

「ありがとう。」

そう呟いて抗えない眠気に目を閉じた。