03

お出かけしよう。

色とりどりのケーキが並ぶテーブルを見て思わず惚けた息が漏れてしまった。想像よりもたくさん種類があるようだ。これだけあるなら目指すは全種類制覇である。押し殺すような笑い声が聞こえて後ろに振り向くとカルマが楽しそうに見ていた。

「な、何よ、はしゃいだって別にいいじゃない。」

「奈々緒って本当に甘い物好きなんだね。誘って良かった。」

「私の方こそ、今日は誘ってくれてありがとね。予想以上にいろんな種類があるから全制覇手伝ってよ。」

ありがとう。いつもだったら素直に言えないような言葉が今日は自然に出てくる不思議な日だ。カルマが前みたいに変に絡んでこない、そのせいでもあるのだろうか。先に行くカルマの背中を見てさてどの順で食べようかと思案する。プレートにお皿を載せトングを片手に持って悩んだ末、端から一種類ずつ取っていく。途中にすべて取られてしまったのか一つだけ空になっている場所があった。さっそく頓挫するのか、ならばと作戦を変えて先に無くなりそうなものから取っていく。全て見てからカルマに合流すると彼の皿に見覚えのないケーキが載っていた。

「カルマそのケーキって。」

「食べたかったってのもあるんだけど、最後の一個だったから奈々緒が食べられるように取ったんだよ。」

「やるじゃん。あとで一口貰ってもいい?」

いいよ。ありがと。と話して席に着く。カルマは私の皿に載っているケーキの多さを見てホントに全部食べるつもりなんだという顔をした。

「ケーキバイキングのケーキっていろいろ食べられるように小さく作られてるじゃん、ついつい食べすぎちゃうんだよね。」

前に家族で行った時は3周ぐらいして弟に引かれたっけな。

「ケーキ食べてもカロリーは全部運動で消費されるから太る心配もないし……」

むしろ消費カロリーの方が上回って太る所の話ではない。

「カルマはこういうのよく行く?」

「俺は行かないかな〜。こういうのって一人で行くもんじゃないし。」

「ああ、確かに。一人焼肉とかは行くけどケーキバイキングは一人で言ったことないな。」

家族や後輩とならあるけど一人で行ったことないな。ケーキを食べに行くなら友達のお店で買うからだと思うが。

「一人焼肉行くんだ?」

「師匠との稽古帰りにね、家のご飯だけじゃ足りないから前菜感覚でふら〜っと。言っておくけどいつもたくさん食べてるわけじゃないからね。」

……って、何ムキになってんだ私。別に大食らいだと思われてもいいじゃないか。カルマを見ると優しい顔で私の言葉に耳を傾けている。調子が狂うな。涼花が帰ってきてから調子が狂うことばっかりだ。でも不思議と嫌な気がしない。

・ ・ ・

ケーキを堪能した。堪能し尽くした。しばらく糖分を摂取しなくていいぐらいには食べた。時間はお昼過ぎ。建物を出たら梅雨だというのに心地良い日が射していた。こんな心地良い日はこの前行われたビアンキとリボーン君の結婚式以来ではないだろうか、あの日も今日みたいに清々しいほどの青空だった。

「これからどうする?」

こんなにいい日だ。すぐ帰ってしまうのはもったいない。隣のカルマに聞けばどうしようねと考える顔。他にやりたい事はなかったかと考えていると一つだけ、見たい本があることを思い出した。それを伝えるとだったら私のおすすめの本を読んでみたい、とカルマが言うのでおすすめの本も見ることに、幸い近くに大きめの書店があるのでそこに行くことにした……ところでカバンの中でスマホが揺れていることに気付いた。手に取ってみるとそれは親友からのもので内容は緊急性を伴うもの。

「どうしたのスズ?……うんわかった。じゃあまた後で。」

二つ返事で引き受けてカルマに向き合う。

「涼花さんなんて?」

私がこれからどんなことをするのか知らないカルマはこてんと首を傾けた。

「ごめんカルマ!突然なんだけど急用が入ったから帰らせてもらう。」

両の手の平を顔の前で合わせてそう言うと焦った顔でえ?と言うカルマ。まさか急にそんな展開になると思っていなかったのだろう。私も思わなかった。でも今から動かないと間に合わないので続いてこう続けた。

「本っ当にごめん!この埋め合わせは必ずする。だから今日は帰らせてほしい。どうしてもやらなきゃいけないことなんだ!」

「……埋め合わせ絶対にしてくれる?」

「えぇ、誓うわ。女に二言はないからね。」

いやそれ男の間違いとぎこちない笑みを浮かべ彼は仕方ないなと息を吐いた。

「埋め合わせ以外にもさ……またこうして遊びに行こうよ……二人で。」

「うん。わかった。…………ありがとう。」

最後にありがとうと微笑んで彼に背を向けて走った。
その日の夜の天気は昼間と打って変わって土砂降りの雨が降った。