「これでよしっと、ナオちゃんできたわよ〜。」
「や……っと終わった…………」
「とっても可愛いわよ!ね、ツー君もそう思わない?」
「……まあまあじゃない?」
ツナったら照れちゃって、と会話する家族に反応を返せないほど疲れていた。時計を見ると待ち合わせに間に合う時間ギリギリ。服なんてどうせ着けられればなんでもいいのだ。カバンを取って玄関に向かうといつも履きなれている靴が見当たらない代わりにこれを履けとばかりに置かれた見知らぬサンダル。
「お母さん…もしかしてこれ……」
「おしゃれするなら上から下まで全てに気をつけないとね〜。」
「履きなれていないものを履いて歩き回れと……?」
「靴擦れしたらカルマ君に介抱してもらいなさい。ほらほら早く行かないと遅刻しちゃうわよ〜。」
もはや突っ込む気力すらない。朗らかな笑みを浮かべ冷えないようにと上着を渡したあとお母さんはすぐ台所の片付けに戻ってしまった。いろいろと言いたいことがあったのに伸ばした手は空振り一人玄関に取り残される。そんな私の気持ちを知らないツナがそれを見て早く行きなよ、と言ったところで何かが壊れた。
「ツっ君のバカ〜!!!!!」
ツっ君にお土産なんか買ってあげないんだから、そんな意気込みで家を飛び出した私の耳にますます意味わからんと叫ぶツナの声が届いた。
走ったおかげで遅刻せずに待ち合わせ場所に着くことができた。息を調えて周りを見渡せば見知った赤髪が視界に入り、おーい、と声をかけると振り向いた彼は目を真ん丸に見開いた。
「その格好……」
「馬子にも衣装って言いたいんでしょ。お母さんに着せ替え人形にさせられてたのよ。」
電車で移動している時窓ガラスに写った自分の姿はとても不釣り合いな姿だった。おしゃれだったり可愛い服を着ようと思ったことがない私の姿はどう見えるだろう。腕を組んで服を隠そうとする私の上から下までをまじまじと見る彼を見て思った。似合わないとか柄じゃないって考えてるんだろうなという考えに反してカルマは、
「似合ってる。」
小さくポソっと紡ぎ出された言葉。それは彼の顔を見てお世辞やからかいで言われたものじゃないとわかった。カルマは頬を赤らめて優しい笑みを浮かべていた。
「な、なんでカルマが照れるのよ……ま、まあ、……その、ありがとう。」
顔に熱が集中するのがわかる。なんだこれは、なんだこの気持ちは。こんならしくもない格好をなぜ似合うと言えるのだろうか。彼がどんな気持ちでそんな言葉を言ったのか今はまだ知りたくなかった。けれど次に自分の姿を見た時は少しは似合ってるのかも……なんて考えられるようになってたら良いなと思ってしまう。
「ほら、さっさと行くよ。」
赤くなった顔を見せないように歩いた。きっとこの色は彼に見えているだろう。