01
好きとはなんだ、と聞いたあれから。
正直私は好きが何か分からず、手嶋くんの返答に足を竦ませていた。私は好きというものが直感的に理解出来なかったし、ユキに感じる『好き』も手嶋くんに感じる『好き』も同じように思えた。そのどちらかの好きに意味をつけてしまえば私は何が好きなのか分からなかった。
『じゃあどっちも好きなんじゃないですかあ?』
電話越しに聞こえた投げやりな声に私は思わず声を上げて笑った。あんまりにも突き放すようなその声色はいっそ清々しい。
私はあの日、真波が言った言葉をずっと胸につかえさせていた。私は彼と同じだと。私が適当に人を『愛して』いたように、真波もそうなんだと思っていたのだが、よくよく話を聞くとどうやらそうでもないらしい。
真波は誰も愛したことが無いと言った。宮原さんの気持ちには当然気がついているが(本当に本人が「当然」と言った。肝の座ったやつだと感心すらしてしまった)、それに答えるということに強烈な違和感を抱いているらしい。いわく、答えたあと何か関係に変化があるのか?もしあったとして、それは自分と彼女との付き合い方として正しいのか?それがどうしても否らしい。
そんな真波を利用するようで悪かったのだが、どうしても感覚の違う第三者に意見が聞きたくて連絡をとったところ、先ほどの吐き捨てるような返答に戻る。心底どうでも良さそうだ。
『どっちとも付き合ったらいいんじゃないですか?面白そうだし』
「適当言うなあ!つーか、なんでユキとも付き合わなあかんのよ」
『えー、だって、手嶋さんと黒田さんに感じてる好きが一緒なんだったらおんなじように扱うべきでしょ』
「破綻してんねえ!そしたら私真波とも付き合うことなるで」
『はは、ごめんなさい』
「告白してへんのにフるな」
正直、真波につっこみつつも(それはそれでアリかもしれない)と思ったのだった。
○
「実験を……しよう」
映画でも見ようかと二人を私の家に召集し、約束通り映画を一本見て順番に風呂に入ったあと、おもむろに私が声をあげる。ゆるいスウェットに身を包み(二人がしばしば泊まるので、私の家にはメンズMのスウェットが数着用意してあるのだ)だらだらと漫画を読みあさっていた二人が顔を上げる。いかにもめんどくさそうな顔をしているが、見なかったことにした。
「知育菓子でも買ってきたわけ」
「いやちゃう。もっとデッケー花火打ち上げようや」
「花火買ってきたの?」
「ちゃうのよ、よお聞いて」
ベッドに座ってクッションを抱える私の神妙な声に二人も漫画を読む手を止めた。
「三人で付き合おう」
「……?」
急な私の発言に、二人が同時に眉根を寄せて怪訝そうな表情をした。その反応は想定済みで、私も一息置いて手元のクッションを抱え直す。
「三人で付き合ってみいひん」
「暑さで気でも狂ったか」
「いや正気やよ。ほら、私もユキも特定の相手おらんし、性別関係なく抱いたり抱かれたりするやん」
「まあ、それはそうだけど」
「そうなんだ」
実のところ、私は私で何度か女の子と体を重ねたことがある。言い寄ってくる男に混じって、時折女も寄ってくるのだ。物好きなものだとは思ったが、別段不都合も無いので男をひっかける時のように女もひっかけた。
それはユキも同じで、ユキは来るもの拒まず去るもの追わずの精神らしい。煌びやかな立ち居振る舞いなどから注目を集めやすいのは彼も同じで、時折男に声をかけられることもあったらしい。彼の場合完全に興味本位だったようだ。
快楽に貪欲というのは、自分の前にいる裸体を大して区別しない、ある意味フラットな視点を持っているのかもしれない。他人に興味が無いとも言う。
「で、私はユキも手嶋くんも好きやろ。手嶋くんも私とユキが好きやろ、ユキも手嶋くんと私が好きやろ。な!」
「いや、な!じゃないでしょ」
「まー俺は別にいいけど」
「ええ?」
ユキは他人に興味が薄い。私も人のことは言えないが、ユキは特段薄いと思う。友人に対してとても優しく、何かあれば激昂するくらい入れ込んでくれるような人間なのでこの表現は適切ではないかもしれないが、何か関係が変化することに対しては鈍い部分がある。だから部内で何か起ころうとも自分を崩さないでいられる部分が彼にはある。
「え、え、何、俺がおかしい?もしかして」
「この空間においてはマイノリティかもしれへんね」
「え〜……?」
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