02
まあ一回ヤるだけやってみてから考えりゃええんちゃうのん。という私の声に、手嶋くんも首を傾げながら頷いた。あまりに突飛な投げかけだが、思いの外簡単にユキが了承したことで手嶋くんも感覚が鈍ってしまっているのかもしれない。そもそも、三人で付き合うからと言って三人でセックスをする必要な別に無いのだし。それはそれ、これはこれ。
よーし、と意気込んだ私に雰囲気もクソもないと文句を言いながらもユキは手嶋くんの手を引っ張り、私と手嶋くんを一緒くたにまとめた。まるで荷物のような扱いに笑いが出たが、それはユキなりの手嶋くんへの気遣いだったのかもしれない。手嶋くんは多分今まで女性としか付き合ったことが無いのだろうし、そもそもの話手嶋くんが私に向ける好きとユキに向ける好きは異なるはずだったからだ。あくまで私もユキも友情の範囲内で今こんなところまで来ているわけだが、手嶋くんだけはそういうわけではない。
「手嶋、嫌なら断ればいいんだからな」
「ええ?何……もうなんもわかんねー……それで何か分かるとかってんならもう、好きにしてくれ……。あ、ていうか、黒田も名字ちゃんも、お互いそういう目で見ることは無いんじゃなかったの」
「えー、今も無いと思ってるけど。まあセックスとイチャイチャって別やし、手嶋くんも居んねやし」
もつれ合うようにベッドへ投げ出された私は手嶋くんとともにゆっくりと起き上がり、ユキは私の言葉に相槌を打ちながらその背後へと回った。初めてということもあって、ベーシックな3Pにしようということなのだろうか。手嶋くんが前、ユキが後ろに回って私は挟まれるような形になる。
「手嶋くん、ちゅーしよっか」
「うーん……うーん…………?」
「やや?」
「嫌じゃない……ま、いいか……」
背後でユキが面白そうに鼻で笑っている。甘えている私がよっぽど見物なのか、未だに戸惑っている割にはキスに応じる手嶋くんが面白いのか。
ゆっくりと重ねた唇は、一度は重ねただけで離れ、二度、三度と重ねるうちに熱を帯びる。悪戯に私が彼の唇を舌でなぞると、抵抗なくその壁は開かれ熱く柔らかな舌に到達した。
水音を鳴らしながらキスをしている間、ユキは私のパジャマのボタンを一つ一つ丁寧に外している。その腕に指を這わせると首筋に軽く吸いつかれた。ユキは伊達に多くの人と体を重ねていないだけあって、離れ際に軽く首筋を舐め上げられただけで背中からゾクゾクと快感が駆け上がる。熟れている。
「ん、跡付けた?」
「いんにゃ。こんなとこに付けたらお前襟の空いた服着ンだから困るだろ」
「よおご存知で。付けた言うたらシバいとった」
「こえ〜の」
ユキに倣うように手嶋くんの頬を手で覆って、首筋を軽く食む。「ひゃ〜……」という手嶋くんの気の抜けた声は甘さを全く含んでおらず、ただただ驚いているようだった。いや、怯えているのかもしれない。もしそうなのであればその時点でこの行為は終了だ。
「なあ手嶋くん、嫌や?楽しめそうにない?」
「……あ、これって楽しむとかそういう感じのやつ?」
「え!?せや。セックスってそうちゃうのん!?ユキはどう?」
「あー?知らん。まあでも、確かに面白い相手とのセックスはいいよな。変に無言にならねー感じが」
私達の言葉に手嶋くんは目を白黒させて口を噤んだ。奔放な私たちとは違い手嶋くんは誠実に人とお付き合いをしていた人だから、セックスへの向き合い方が我々とは異なるのだろう。
「いや、なんかもっとこう、リードしなきゃ!とかばっか思ってたかも、今までの俺……」
「て、手嶋くん!!なんて健気で可哀想な……おーヨシヨシ……」
既にユキに脱がされてキャミソールだけを身に付けている私は胸元の緩やかな丘に手嶋くんの顔を抱いて緩いウェーブの髪を手で梳くように撫でた。不満そうな声が聞こえてすぐ離すと、可哀想じゃねーと不貞腐れていた。
「哀れ手嶋、多分こいつはそんなこた思ってもねーから安心しろ」
「セックスはコミュニケーション!して欲しいことは積極的に声に出すししたくない事はせえへん。これがモットーや」
「はえ〜……」
「で、お前は今何して欲しいんだよ」
「唇の増築」
2人にキスをしたいのに唇はどうやったってひとつなのだ。
「そういうのじゃねーのよ」
「変なやつら……」
呆れる手嶋くんの手を取って、ゆっくりと絡める。1本1本確かめるようになぞれば手嶋くんが息を飲むのが伝わった。ユキは私のキャミソールをゆっくり脱がせる。私ばかり脱ぐのは流石に気恥しいので、ユキのスウェットの裾を引っ張って脱ぐように伝える。
「嘘やんか。手嶋くん、胸触って」
「うへぁ、エロ……頭おかしくなりそう」
「いいよ俺らはもうおかしいんだから」
「えらい言われようやな……んっ」
手嶋くんがこわごわと乳首を手で転がす。いかんともし難いその手つきに思わず声が漏れて驚いて口を手で覆う。
「名前、こっち」
「んー」
ユキに顎を掬われ、そちらを向けば唇が重ねられた。少し乾燥している唇は何人の人間と重なってきたのだろうか。百戦錬磨だったら少し面白い。
熱い舌が差し込まれ、舌の裏を撫でられた。胸を弄られているのも相まって、くぐもった声がユキの口へと消えていく。
「ぺは、う、うめーのね……」
「伊達に人抱いてねーっつの」
「マジで箱学爛れてんな」
「俺らだけだっつの。気になる?俺の舌テク」
「へ?」
文脈が理解出来ず素っ頓狂な声を上げた手嶋くんは、頭の上にクエスチョンマークを浮かべたまま「まあ、気になる?かも?」と答える。ユキはそれに呼応するように私の顎へ添えてた手を手嶋くんの方へ伸ばして、私の顔の横で彼らの唇が重なり赤い舌がちらりと垣間見えた。
「ん、んん!?は、……ぅ……っ!?」
「うお、スゲー流石に人がちゅーしてんのこんな間近で見たん初めて。キスの4DXや」
「おいコラ変な例えしてんじゃねーよ」
ちゅ、と生々しいリップノイズと共に出る言葉がツッコミなのだから黒田という男は変で面白い。言葉が出ない程に驚いている手嶋くんの頬を両手で挟んで、追い討ちのようにキスをすれば見開いていた目をより一層大きくした。
「大丈夫そ?」
「あたままわんない」
「おもろ」
不満げな顔をした手嶋くんが私のデコルテをぐいと押して距離を取る。尖らせた口が可愛くて指でつつくと結構強めに噛まれてしまった。
「あ、痛い〜」
わざとらしく言う私に、手嶋くんは眉根にうすく皺を寄せたまま私の指を包むように口の中で舐め上げた。口内の温度よりもよっぽど熱い舌が指を焼こうとしているようだ。
「んむ……」
「やーん、犬みたいや。ヨシヨシ」
「なー、俺も構えって」
「私はブリーダーかて」
「真ん中の責務だろ」
責務て。言いながらユキの顎の下を擦る。不満げな表情を確認して、上裸になっているユキの逞しい腹筋をなぞる。呼吸と共に上下していたお腹の動きが、息を詰めるように不規則になった。指をそのままゆっくりと下ろしてスウェット越しにソコを触ると、まだ硬さの少ない陰茎に行き当たった。焦らすように短い爪の先で形を確かめるようになぞる。
私は胸を弄られ、ユキは私に下を弄られて少しずつその気になっている。手嶋くんを置いていかないように何度も唇を合わせて舌を追ったり、下唇に吸い付いた。胸に手を伸ばすと、驚いたように唸っていた。
部屋にはじっとりと濡れた吐息と誰のともつかない声が響く。いつも寛いでいる私の部屋が別の部屋になってしまったかのようだった。
「名字ちゃん、下」
「ん、ええよ……」
手嶋くんの指が私の胸からへそを通って下着の内側へ滑り込む。そこへ触れた時、ねっとりとした水音が響いて思っていたよりも興奮していた自分を知る。性急に指を挿入することなく撫でるように割れ目をなぞる手つきに焦らされて呼吸が浅くなっていく。
「は、……っ、ぁ」
「……濡れてる」
「キス、気持ちよかったから」
手嶋くんの肩に顔を埋めていると、2つの声が同時に「ふーん」と言った。その得意げな声色といったら分かりやすいもので、コイツらは性格の悪い部分が似ていると思った。
「うわ、中あっつ」
「あ、!あんまそこ、擦ると私、わたし……」
「すぐイッちゃう?」
ゆっくりと指を私の蜜壷へおさめた手嶋くんは、そのまま膣内の上壁を擦る。自分でも何度もいじったことのあるざらついたソコは、触られるだけで奥を突かれる感覚を想起させて腰を溶かしていく。まるでパブロフの犬だ。
「指でイッたら、多分この後大変だよ」
「へぁ、……ぇう、なんで?」
「だって、三人でしてんだから……女の子1人だったら二回戦以上は確定だろ?」
溶けそうな脳みそでユキの陰茎をゆるゆると擦りつつ、手嶋くんの言葉を聞き返す。最初に言ったが、私もユキも、同性に抱かれたり、反対に抱かれる経験がままある。
「待て、まあそれは道理かもしんねーけどそれは俺らにはあんまり通じねー」
「え、なに、強キャラ?」
私の手を止めるように握ったユキが背後から声をかける。電車で私がどこも持てずにふらついた時や、酔っ払ってフラフラになっている時、ユキは特に迷いなく私の手をとる。その時と何ら変わらない手つきで、私とユキの関係は今になっても変わってはいないのだと言われているようで安心した。
「言っとくけど俺は別にお前を抱けるし、反対も出来る」
「え、そうなの?お前俺の事、その、アレなの?満更でもない的な」
「いや別にそれは無い。つーか、名前にも無いし」
「なんなんだ……」
複雑な人間模様に手嶋くんは未だ混乱しているようだった。私が手嶋くんの立場でもそうなっていただろうし、多分手嶋くんじゃない人はそもそもこんなところまで足を踏み入れていない。それだけ私たちに情があるのか、単に手嶋くんが変な人なのか、その辺はよく分からない。
「それに私やってネコばっかちゃうしね。まあそれは好みやし、都度相談しよな」
「お前ペニバンとかやんの」
「誘われたらやるけど、自分のは持ってへん」
「ぺ、ね、何……?」
あからさまに手嶋くんの声が戸惑っている。誰かを置き去りにするセックスはセックスでは無いと思い説明をすると、手嶋くんは分かりやすく顔をサッと赤く染めてそっか、と呟いた。
「手嶋くん可愛いなあ。エッチしよっか」
「スケベオヤジみたいな誘い方しないで……」
「あ、そうだ」
思い出したようにユキが声をあげて、のそりとベッドから降りる。何をするのかと思えば近くの椅子を引き寄せて自分のもののように座っただけで、何か用を思い出したようでもなさそうだ。
「何?王?」
「そう。いやそうじゃなくて。流石に一発目が3Pじゃあ、思い出としてどうかと思って。最初は俺気配消すから」
「…………あ、俺への配慮!?い、今更!?」
「変なやっちゃな……まあええけど……」
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