義務教育を終えると個々の道、夢への選択を迫られる。
何かしらの【個性】を持っている人たちで溢れかえっている今、その殆どは『ヒーロー』になるためにヒーロー科のある高校へと進路を決めるのが昨今の常識。

「オレ雄英受けてみようかな」
「マジで?倍率ヤバいんだろ?」
「もしかしたらよ、受かっちゃったりして!」

彼らも例外ではない。

配られた進路希望調査用紙を次々と提出していく。
その顔は夢と希望で満ち溢れていた。

そんなクラスメイト達を視界の端に入れながら、湊川灯吏はパサリと落ちてきた前髪を気だるそうにかき上げ、用紙に文字を綴った。


《第一希望:アイドル科》



惰性で始まる物語



ことの発端は三月の終わり。
既に第一志望に合格が決まって、寮へ引っ越しの準備をしていたところだった。


――――ピンポーン…


普段鳴ることの少ないインターホンが突如響いた。
あまりに突然だったため、すっかりリラックスをしていた灯吏はビクリと肩を揺らし音のした玄関の方を睨み付ける。
このまま居留守でもかましてしまおうか。
そんな悪事が頭をよぎったが、もしかしたらレディが最後に挨拶をしに来てくれたのかもしれない。
(レディと言っても彼女とかではなく、ナンパされて数回関係を持っただけの女性だが)

女性を大切にする灯吏にとってそれを無視してしまうわけにはいかない、と上辺だけの笑みを貼り付けてドアノブに手をかけた。

「湊川、灯吏くんだね?」

そこに立っていたのはレディとは程遠い虚弱そうな背の高い男性と、不思議なゴーグルをした小汚ない男性だった。
予想とは違う来客に灯吏は眉間にシワを寄せ嫌悪感を露にした。
そんな正直な対応をする灯吏を見て、目に影の落ちた虚弱そうな男性がハハハ、と笑う。

「なんのご用でしょう」

レディ達がこの湊川灯吏の姿を見たらなんと言うだろう。
きっと『灯吏くん恐い』とかではなく『不機嫌な灯吏くんも素敵』と変換されてしまうのだろう。
顔がいいというのは、それだけで得である。

「単刀直入に言うと、君を雄英に入学させることになった」

彼のその言葉に、頭が追い付かない。
雄英と言えば、数々のスーパーヒーローを産み出した名門高校である。
ヒーローに全く関心のない灯吏でも名前くらいは聞いたことがあった。

「いや、オレは早乙女学園に入学するんですけど…」
「政府からの指令だ」

後ろに立っていたゴーグルの男性がピラリと灯吏の前に一枚の紙をつき出す。
そこにはパソコンで打たれた規則正しい文字と、端の方に現総理のサインらしき文字と印が押してある。

「申し遅れた。私は雄英で講師を勤める相澤だ。こっちは…」

差し出した書類を凝視し怪しがっている灯吏を見たゴーグルの男性…相澤が警察のように講師免許を見せながら自己紹介をし、隣の男性もついでにと言葉を紡いだが、男性は掌を向けてそれを制止した。

まばたきをした一瞬。
その一瞬で虚弱そうな男性は消え、代わりにアメコミに出てきそうなガチムチの男性が灯吏の目の前に立っていた。

「私が、オールマイトだ」

さすがの灯吏でも知っていた。
テレビを見ていれば必ずと言っていいほどその名前を耳にする。
今や妖怪やアイドルなんかより人気のあるナンバーワン・スーパーヒーロー。
生で見るのは初めてだ。

「(手品か……!)」

雄英講師にナンバーワン・スーパーヒーローが揃っていると言うことは、きっとこの書類は本物なのだろう。
それよりも灯吏には気になることがあった。

「“入学させることになった”と仰ってましたが、決定事項なのですか?オレの意志関係なく?」

チラリと書類から目を反らし彼らを見ると、彼らはバツが悪そうに灯吏から視線を外した。

「……悪いと思っている」
「オレはヒーローにはなりたくない」
「だがこれは決定事項なんだ。政府が君の個性は『危険』だと判断した」

湊川灯吏
個性:言の葉
言葉にして発したことが現実になる。

正直、灯吏はこの個性が嫌いだった。
便利でいいじゃないか、と思うものが多いが、大半の人間はこの個性を聞いた瞬間灯吏から離れていく。
いつ発動したかも分からない手軽で最強の個性に人々はまず恐怖を覚えるのだ。
だったら自分は無個性の人間であると偽り通す。
それが中学に入って出した彼の答だった。

「そんな話、すぐに受け入れるとでも?」

自分のやりたい道を潰され、行きたくない道を強制的に歩まされる。
納得のいかない灯吏に、オールマイトはビシッと指を三本突き立てた。

「三年!君の時間をくれないか!その三年間、授業料や生活費はこちらで賄う!卒業後ヒーローにならないのなら早乙女学園への編入手続きも行おう!!」

少し時間は遅くなる。
だけど本来いきたい道へ進める保証があるなら、

「…………わかりました、入学します」

少しだけ遠回りだけど、適当に過ごしてたら三年なんてあっという間だ。

頷いた灯吏を見て、相澤とオールマイトは安堵した。
いくらイレイザー・ヘッドの相澤がいるとしても、瞬きしている間に灯吏に個性を使われたらお手上げだ。
かといって口を塞ぐという恐喝じみた真似をしたら雄英の名に傷がつく。
灯吏に入学前のプログラムと個性届けと身体情報記入用紙を渡し、ヒーロー二人は去っていった。

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