真新しい制服を着崩し、全く見慣れない近未来的な校舎の前に彼は立っていた。
本来、登校初日は昨日だったのだが、生憎登校途中(と言ってもこの時点で遅刻していた)に素敵なレディに捕まってしまい解放されたのが夕方4時。
そんな時間に学校へ行ってもとんぼ返りするだけだ、とその日はそのまま帰路についた。
その長い脚を見せびらかすように、湊川灯吏は校舎の中へと進んでいく。
途中すれ違った生徒たちからの視線を受けて、感嘆の声さえ浴びた。
灯吏はこの場でいい意味で場違いである。
彼が本来進学するはずだった『早乙女学園』はアイドル育成の名門であり、倍率も雄英と同じくらい高い学校だ。
灯吏はその名門入試を上位成績で合格した優等生。
もちろん、アイドル育成なので普通の試験だけではなくルックスも含まれる。
まるで彼の周りだけライトアップされて、キラキラとした粒子が飛んでいるようだった。
灯吏はそれを自覚しているのか否か、目の合った女子達に手を降りながら己の思うがままに歩き所属する教室を探した。
▼1―A
「ねぇねぇ!今日校門にスゴいイケメンがいたよ!芸能人かなぁ!撮影かなあ!!」
朝から少し興奮気味に語る前髪が短めのオカッパのような髪型をした女子…麗日お茶子は、昨日友人になったばかりである緑谷出久の肩を掴みブンブンと揺さぶった。
「う、うらら、か、さん…!」
「う、麗日くん…!緑谷くんが白目向いているぞ…!」
「わっ!ごめんデクくん…!」
隣にいたガッチリとした体型のメガネをかけた男子、飯田天哉の制止に麗日は緑谷を掴んでいた手を離す。
頭をブンブンと揺さぶられた緑谷の目はぐるぐると回っていた。
「席つけー」
緑谷のめまいがようやく治まったであろうくらいに、担任であるイレイザー・ヘッドの相澤が教室に入ってきた。
相変わらず覇気のない声に小汚ない格好だ。
片手には彼のエネルギー源であるゼリー食品が握られている。
初見こそ驚いたが、彼らは昨日の一見で慣れてしまった。
順応というものは素晴らしい。
相澤と言う男はとにかく合理性を気にする。
昨日は静かになるまで8秒かかり文句を連ねていたようだが、今日は5秒ほどで静かになっただろうか。
先生からお咎めの言葉は出てこなかった。
しかし、その静寂は一瞬にして破られる。
「あ、あの。1―Aってどこです?」
開きっぱなしの扉からひょこりと顔だけ出てきた。
その声と芸術品のようなキレイな顔立ちに相澤は覚えがあった。
いや、一度見たら忘れることができない。
「湊川か…お前昨日サボったな。」
「…誰かと思えばあの時の。で、1―Aどこです?」
「1―Aはここだボケ」
「え、まさか担任ですか」
それを早く言ってくださいよ、と灯吏は眉を少し下げ教室へと足を踏み入れた。
その姿を見た生徒は彼から目が離せなくなってしまった。
入学初日から欠席、初対面であろう相澤と顔馴染みのように話す異端な人物。
その要素もあったかもしれないが、目が離せない最大の理由は灯吏のルックスだろう。
制服を軽く着崩しているが低俗な印象は全く感じさせない。
むしろ個性のない制服がまるで彼のだけ違ったもののように見える。
きっと彼は校内ジャージですら一流ブランドの衣類のように着こなしてしまうのだろう。
同い年とは到底思えない。
校則やマナーにうるさい飯田も全く口出ししようとしなかった。
口を出すことすら忘れてしまうほど見惚れてしまっていた。
「お前一番後ろの席。の前に自己紹介くらいしろ」
「…湊川灯吏です。」
よろしくね、とニコリとクラスメイトに笑いかければ彼らの顔が一瞬にして赤くなる。
灯吏には見慣れた光景なので、あまり気にしない。
相澤が指をさした席に着くと、その長い脚を窮屈そうにしまった。
「おや…運がいいな。オレの前に素敵なレディが…よろしくね、レディ」
「よ、よろしく…」
彼の長所は顔やスタイルだけではない。
気だるそうなその声も雰囲気も彼の魅力の一つで、多分、女性なら彼に落ちない人はいない。
男性でさえも彼に落ちそうになってしまう。
クラスの全員が、一瞬にして彼に興味を抱いた。
もしかしたらこれも灯吏の個性なのでは…と相澤は彼の異常な魅力にひとつの仮説を、頭の中にこっそりと立て、ホームルームを始めた。
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