―――――ピピーっ!
試合終了のホイッスルが響き渡る。
ペラリと反対側のスコアをまくっている縁下を視界の隅に収め、精神力と体力の底まで使い果たしへばっている彼らの元へ碧は足を進める。
もちろん手にはドリンクカゴとタオルを持って。
「おつかれ」
突如上から掛かってきた声に日向と影山が顔をあげた。
それはやはり、嬉しさというよりかは疲労のほうが色濃く出ている。
「はい、ドリンクとタオル」
「あざっす、」
彼らが力なくそれらを受けとるのを見届けると、ネットをくぐり今度は月島と山口にタオルとドリンクを渡す。
日向・影山程ではないが、彼らも疲労困憊といった感じだ。
「惜しかったね、もう少しだったのに」
碧のその言葉に二人は少し顔をしかめる。
顔合わせの試合と言えど、負けたのはやはり悔しかったのだろう。
「日向くんたちも凄かったけど、君たちも十分凄かったよ」
「…哀れみですか」
「いいや、純粋に。なんだか少し羨ましくなったくらい」
彼女の言った言葉の意味を理解できず二人は首を傾げるが、碧はそれに気づかないふりをして「おつかれさま」と言い残し菅原たちの元へ戻っていった。
その時の控えめな、少し悲しげな彼女の微笑みがなぜか月島の頭をグルグルと回って離れなかった。
後にこれが、彼にとってとても小さな、でもとても素敵な出来事のきっかけになるとこを知るよしもない。
澤村や田中たちと先程の試合を講評していると、校舎へ続く渡り廊下からドタドタと地響きのような音が聞こえふとそちらを見た。
「組めた!組めたよーっ!」
「武田先生…!」
慌てた様子で体育館に飛び込んできた男性はこの男子バレー部の顧問『武田一鉄』である。
バレーに関しては全くの素人だが、サポート面でとても活躍してくれる頼れる顧問だ。
「練習試合っ!相手は県のベスト4!青葉城西高校!」
興奮も冷めやらぬ様で、自分が殴り書きでメモした(でもさすが現代文専門であって字はキレイだ)用紙を高らかに掲げ部員たちに告げる。
どうやら決まってすぐに伝えに来てくれたらしい。
なんだか子どもが産まれたと報告を受けた父親みたいだ、と碧は頭でそんなことを考えていた。
「青城!?」
相手校に驚いた彼らの声で碧は現実へと戻ってくる。
青葉城西といったら、県ベスト4常連の強豪校だ。
『青城』という言葉に、朝まで一緒にいた優男の顔を思い浮かべる。
ああ見えて彼はその主将を勤めているのだから、人は見かけによらないものだ。
にしても、どうしてそんな強豪校と練習試合が組めたのだろうと些か疑問に思ったが、以前武田が同じように練習試合を組もうとしたとき土下座一歩手前までいったのを思い出して一気に不安が込み上げてきた。
それは前科を知っている澤村と菅原も同じようで、強豪校と練習試合だと嬉々とした表情を見せている日向と正反対に、真っ青とした表情で武田のことを見ていた。
「してない、してない!土下座得意だけどしてないよ、今回は!」
そんな彼らの視線に気がついたのか武田は誠心誠意否定をするが、逆にそれが怪しいとかなんとやら。
「ただ…条件があってね…」
「条件?」
相手校からの条件提示に、皆耳を傾ける。
武田がメモをクシャリと握りつぶすと、真っ直ぐ影山の方を向いた。
「『影山君をセッターとしてフルで出す』こと」
その条件を聞き影山の眉がピクリと上がった。
誰が出した条件か分からないが(嘘だ、大体は検討がつく)この場にいる誰もが気に入らない内容だ。
「なんスかそれ。烏野自体に興味は無いけど、影山だけはとりあえず警戒しときたいってことですか。なんスか、ナメてんスか。ペロペロですか」
まるで影山しか眼中にない言い種に、田中の短い導火線はすぐに爆弾にたどり着く。
碧だって、顔には出さないが激おこなんとか丸だ。
「い…いや、そういう嫌な感じじゃなくてね。えーっと…」
田中の威圧的な態度に怖じ気づき、武田は言葉を詰まらせる。
今の田中は完全に悪人面だ。
ヤンキーの類いだ。
「い…良いじゃないか。」
「!」
重い空気が流れていた中、菅原が意を決したように口を開く。
「こんなチャンス、そう無いだろ。」
それはまるで自分にも言い聞かせているような言葉で、彼の表情を見た碧の眉間にシワが寄る。
「良いんスかスガさん! 烏野の正セッター、スガさんじゃないスか!」
今まで、三年間頑張ってきて積み上げてきたものを一気に崩された感覚だろう。
それか、高く積み上げたと思ったものがようやく地上だったか。
どちらにせよ絶望的には変わりない。
「、俺は…」
詰まっているのは、言葉を選んでいるからか、それとも本心を押さえ込んでいるからか。
ぐっと拳を握りしめ、彼は真っ直ぐ前を向いて言った。
「俺は、日向と影山のあの攻撃が、4強相手にどのくらい通用するのか見てみたい。」
そんな彼の思いを感じ取ったのか、澤村はその言葉を聞くと頷き、武田に練習試合の詳細を求めた。
「日程は来週の火曜日、相手側は多忙だそうで一試合しかできないけど…」
『来週の火曜』というワードに碧は自分の頭を整理した。
来週の火曜…来週の火曜何かあった気がする…
それを思い出すのは家に帰ってから。
そして落胆するのであった。
ようこそ
新しい仲間と彼の決断
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