「おかえりなさい、菅原さん」
「あいつ、分かってくれたかな…」

日向の扱いに悩んでいた影山に、そっと助言をした菅原が不安そうに帰ってきた。

「大丈夫ですよ」

その言葉に根拠はない。
彼が影山に何を話していたのか分からないし、ただ、碧も菅原と同じく彼の才能を信じてみた。



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月島がサーブを放つとそれを田中が完璧に受け止める。
そしてボールは影山の頭上へ。

彼がトスのモーションに入った、そう思ったときだった。

――ドスッ! バシンッ!

それは一瞬の出来事だった。

影山が日向にトスを出した、と思った次の瞬間にはボールは相手コートを貫いていた。

「――よしっ!」

菅原のアドバイスが効いたのであろうか。
の割には彼も目を見開いて驚いている。
そして何より、スパイクを打った本人さえも驚いていた。

「手に、当たったぁあ!!」

痺れる掌、向こう側に転がっているボール、自陣側のスコアをめくる碧、それらを見て何が起きたのか把握できた日向は嬉々とした声を上げる。

「当たった?」

碧は、いやここにいる全員が彼のその言葉に首をかしげた。
驚いたり悩んだり、なんとも忙しい試合風景だ。

「おい…今…」

そんな中、澤村は『ありえないものを見た』といった顔で相手側のコート、日向を見ている。
常にどっしりと構えて動揺などあまり見せない彼が、ここまで分かりやすく動揺しているのも珍しい。

こんなに動揺しているのは、去年女装喫茶で女装(女子だけど)させられた碧を見た時以来だった気がする。

「日向、目ぇ瞑ってたぞ…」
「はぁ?!」

その言葉に、今度は誰もが驚いた。
それはトスを渡した影山でさえも。
日向はまぐれであんな速攻を打てたのだろうか。

否、影山が日向のスパイク打つタイミングや、最高到達点に合わせてトスを出したのだ。

なんの練習も無しに、ましてや昔からの幼馴染みというわけではなく、高校に入って出会ったただのチームメイトのポテンシャルを瞬時に理解してしまうとは、天才とは恐ろしい。

「うォイ、お前ええ!目え瞑ったって何だ!」

だが当の天才本人は事の状況を全く理解できていないようだ。
スパイクが決まったことに(と言うよりは手に当たったことに)感激している日向をその鋭い目付きで捕らえる。

「お前が“ボール見るな”って言ったんだろ!?目え開けてるとどうしてもボールに目が行くから…」
「確かに言ったけどっ―、」

どうやら天才は日向のまっすぐな信頼感情に動揺を隠せていないようだ。
中学で信頼の『し』の字も経験しなかった影山にとって、自分をこんなにも信じてくれる人物は初めてなのだ。

素直とは時に素晴らしい武器になるのだな、と碧はスコアボードにもたれ掛かりながらそんな二人を見ていた。

そのあと、何度か例の速攻を使おうと試みたものの、内2回は日向の顔面にボールを食い込ませる。

「日向くん痛そう」
「スパイクじゃないにしても速攻のトスだから痛いだろうな」

碧は月島チームのスコアをめくりながら、隣で日向チームのスコアめくりを担当している縁下に話しかけた。

「でもなんだか二人楽しそう」

目を細めて微かに笑う碧の横顔は、嬉しさと羨ましさが混ざり込んだ儚げなもので、普段自分をからかいに来る彼女しかまじまじと見たことがなかった縁下は『こんな顔もできるのか』と彼女から目が離せなくなった。

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