春。出会いの季節。

3年かけて親しくなった人と別れ、また3年かけて新しい交友関係を築き上げる。
やっと倒したボスが実は中ボスで、まだ物語の半分も進んでいない。そんな気分。

「(を、体験したのが1年前)」


They call her prince



月日の流れは早い。

今日という日は人生のほんの一瞬でしかないけれど、その一瞬でも少しだけ色のついた一瞬になるだろうか。

教室のクラス割りを群れの外側から見つめる少年、否少女はこれから訪れるであろう未来に思いを馳せた。

「碧くん!おはよう!」
「おはよう」
「碧くん今日もかっこいいね」
「ありがとう」
「碧くん」
「碧くん」
「碧くん」

先程から連呼されている名前こそ、この少女の名である。
『少女』なのになぜ『くん』と敬称がついているのか、それは彼女の見た目の問題にあった。

女性には高すぎる身長、中性的で美しい容姿と声、髪も長めのショートヘアーと、見た目だけでは性別を判断できない。(むしろ男性に見えてしまう)

しかし制服はキチンと女子制服を着ているので、足元を見れば性別は一発で分かるのだが……恋は盲目というものなのだろうか。

一つの挨拶をきっかけに、碧の回りには女子生徒で埋め尽くされてしまった。

一気に話しかけられるが、碧は聖徳太子でも何でもなくただの女子高生なのでそれを聞き分けるのは不可能に近い。
だけれど常に笑顔で頷いているため、女子生徒はそれを気にせず自分の話をマシンがンのようにしていってしまう。

これでダブルブッキングを幾度となくしてしまったのに、どうやら御輿碧という人物は学習というものをしないらしい。

この光景はもう烏野の恒例となっていたが、初めてそれを目の当たりにする一年生諸君は呆気にとられ登校の足を止めてしまうほど異様なものに見えるようだ。

「おはよう」

そのなかの一人と目が合うと、碧はにっこりと微笑みこちらから挨拶を投げ掛ける。

投げ掛けられた一年生と思わしき少年は、思いもよらない彼女の行動に顔を少しだけ赤くして「っす、」と小さく返し、足早に昇降口へと消えていった。(彼女に届いているかは分からない)

「あー、やっぱり」
「菅原さん」

聞きなれた声がしたと思いそちらを振り向くと、そこには3年(に、この春進学した)菅原が立っていた。

ごめんね、と集まっていた女子生徒の横をすり抜け彼の元へと歩み寄る。

おはようございますと挨拶をすると、碧はその灰色がかった髪の毛にキレイなピンクの花びらが付いていたので、指先で摘まんで取ってあげた。
すると後ろの方で、碧に群がっていた女子たちの黄色い声が短く上がった。

碧はこの声の意味をいまいち理解できていない。
ただ菅原に限らず男子生徒と仲良さげにしているとたまにこのような事態になる、ということだけは把握している。

「女子がたくさんいる所には大体いるよね」
「なんですか、その私が女の子大好きみたいなニュアンスは」

ちがうの?と悪戯っ子のような笑みを見せる菅原に碧は、この人は本当に先輩なのだろうか、と彼の小悪魔的な女子力にクラッと目眩を覚えた。

「そう言えば、今日の部活4時からだって」
「分かりました、ありがとうございます」
「じゃあまた部活でね」

そう言って背中を向き歩き出した彼のリズムに合わせ、フワフワとしたアホ毛が上下に揺れる。

「(ピク●ン…)」

ふと、彼の後頭部に大きな桜の花びらが付いているのを見つけた。
俗に言う無念桜というやつだ。
あんな大きなものが落ちてきたら普通気がつくのに、その気持ち良さそうな髪の毛がクッションになって衝撃が無かったのだろうか。

「(花ピク●ン…)」

- 2 -

*前次#


ページ:


ALICE+