「あれ、リッキーじゃん」
「………」
「なんでそんな嫌そうな顔するの」

教室に入ると、女子の小さな喚声と共に碧は既に席についているよく見知った人物を見つけた。

彼女に『リッキー』と親しげに呼ばれた男子生徒は、声をかけたのが碧と分かると(自分をこんな呼び方するのは碧くらいだ)死んだ魚のような目をして彼女の方へしょうがなく視線を移す。

「だってお前いると(女子が)うるさいんだもん」
「なんだい?モテないからって僻みかい?」
「死ね」
「ぅぐふっ!」

うぷぷぷ、と笑いながら笑えない冗談を言ってのける碧に、これまた辛辣な言葉のストレートを少年は豪速球で決め込んだ。
オプションに脇腹チョップまでつけて。

御輿碧と彼、縁下力は決して仲が悪いわけではない。
共にバレー部に所属していて、マネージャーと選手という関係だがその間柄は良好だ。

つまりは、こんな冗談が言い合えるほど仲がいい、ということになる。

「あ、今日の部活4時からだって」

席の指定など何のその。
まだ誰も来てないであろう縁下の隣の席に腰を下ろすと、その長い脚を見せびらかすように脚を組む。
少しだけ捲れ上がったスカートから覗く太股に、何故だか全く反応しない。(それはきっと彼がこの人物がどんな奴なのか知っているから、もしくは完全に男として認識しているからだ)

「わかった、後で連絡来るかな」
「リッキーだけ忘れられてたりして」
「やっぱり死ね」

今度は同じくらいの高さになった碧の頭にチョップをお見舞いする。

うら若き女子高生が出していいのかと(むしろそんな声出せたのかと感心さえする)思うような声をあげて、碧は誰のものか分からない机の上に沈んだ。

御輿碧、享年16歳。
短い人生だった。






始業式も無事終わり、ホームルームで担任から明日以降の連絡事項を聞き、今日の行事は全て終わった。
後は部活を残すのみだ、と碧は部室棟に向かうため鞄に手をかけ立ち上がる。

「御輿くん、ちょっといいかな…?」

教室を出ようと脚を進めると、自分よりも少し低い位置から可愛らしい声が聞こえて思わず足を止めた。

そちらを向けば、声にピッタリの可愛らしい女子生徒が立っている。
化粧バッチリのギャル系ではなく、どちらかといったら清楚そうな印象を碧は受けた。(向こうはなんだか自分のことを知っているような素振りだが、残念な事に彼女は全く覚えていない)

この手の呼び出しには慣れていた。
でもこの呼び出しを受けてしまうときっと部活に遅れてしまう。

彼女の勇気も無駄にできないし、無断遅刻してキャプテンのお怒りを受けるのも避けたい。(一度痛い目を見た)

どうしたものか、と考えていると、ちょうど縁下も部活へ向かおうと荷物をまとめ席を立とうとしていた。
教室の中と外でバッチリと目が合う。

「リッキー、大地さんに少し遅れるって伝えといてくれる」

縁下はなぜ彼女がこんなことを言うのか一瞬分からなかったが、碧の向かい側に女子が立っている事を確認すると『ああ、またか』と少しだけ苛立ちを感じながら「わかった」と手をあげて教室を出ていった。

「(ちゃんと伝えておくよ、『御輿はまた女子に告白の呼び出しを受けて遅くなります』って)」

よく見ろ、女子生徒共。
御輿碧は見た目こそそこらの二流芸能人より優れているが、性別は完全に女だし、この間だって両手に女子をはべらかせてた軟派な奴だぞ。

なんであんな奴がいいのかな。

縁下はひとつため息をつくと、男は中身だ、と自分で自分を慰めてその話題はもう終わりにした。

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