―――キーンコーン……
いつの間にか寝てしまったらしい。
意識の遠くでチャイムが聞こえ、碧は重い瞼をどうにか開けた。
二、三度瞬きをすると、どうしてこんなところで寝ていたのか頭を働かせる。
自分の体には学ランがかかっていた。
「(あ…確か影山くんと一緒に授業サボって…)」
そこまで記憶が鮮明になってくると、背中と腹回りに違和感を覚えた。
とても暖かい。
もしかして、と顔をできるだけ後ろに向けると、案の定丸い頭と黒い直毛が見える。
服を着ているから事後ではないはずだ。(なぜだか自分が影山を犯した気でいた。寝起きの頭は怖い)
腹の回りにまとわり付いているのは恐らく影山の腕だろう。
どうしてこんな体制になってしまったのか悩ましいが、今は彼を起こさずここから脱げ出す事が先決だ。
影山の腕をゆっくりと持ち上げると、彼は身動ぎをして更にきつく碧の腰に腕を回した。
「(ダメだこりゃ)」
Even time too have doing
「スイマセンしたっ!」
あれから約10分後、影山が目を覚まし事の状況を理解すると、畳にめり込むくらいに額を擦り付けて謝ってきた。
その間、起きて5秒ほどだ。
彼は寝起きが良いらしい。
「大丈夫だよ、気にしないで」
碧は影山の頭をポンポンと撫でると小さく笑った。
「責任とります」
「いやいやいや、とらなくて大丈夫」
「女子の体に触れてしまった…!」
こっちの話を聞いているのかいないのか分からない影山に(恐らく聞いていない)少々困惑しつつ、その初さに口元が緩んでしまう。
「影山くん、そんなに悩んでると部活始まっちゃうよ」
もう時計は3:30を示していた。
その言葉を聞くと影山は勢いよく立ち上がり「本当にスイマセンしたっ!失礼します!」と急ぎ足で部屋から出ていってしまった。
「(あ、学ラン返し忘れた。)」
自分の腕の中にある学ランを広げると首元に『1‐3』と書かれたプレートが付いている。
今から届けに行こうか悩んだが、きっと自分が彼の教室に届けるよりも彼が部室に行く方が早いな、と結論付けシワにならないように綺麗に畳んだ。
「(意外と紳士的なんだな)」
体を冷やさないように、と掛けてくれただろうそれに、碧は彼の愛情を感じ嬉しくなった。
「あ、月島くんだ」
「…なんですか王子様」
教室に戻り荷持を取ってきて部室へ向かっていると、同じく部室へ向かうのであろう月島にばったり出会した。
珍しいことに、今日は一人らしい。
「山口くんは?」
「あいつ今日日直なんで遅れます」
珍しいね、と口にすると「いつも一緒ってわけじゃないですよ」と不機嫌そうに返ってきた。
「手伝ってあげればいいのに」
「イヤですよ、めんどくさい」
目指す場所は一緒なので互いに肩を並べて部室まで歩いていく。
月島と並ぶと、碧が小さく見えるから新鮮だ。
月島は隣で揺れる、いつもと違う茶色の髪に少し戸惑いを覚えた。
みんな『烏野の王子様』だとか『カッコいい』だとか、彼女のことをまるで男性のように見ているけれど、自分にとっては只の顔のいい女性にしか見えない。
正直言うと、どこがカッコいいのか分からないのだ。(こんなに可愛らしいのに)
だからモデルの仕事だって女性としてやればいいのに、
「(僕の感覚がずれているのだろうか)」
チラリ、と盗み見た彼女の横顔はやっぱり綺麗で、思わず拐って自分のものだけにしたい衝動に駆られた。
ふと、彼女の小脇に抱えられた学ランに気がつく。
いくら男性と間違われようと、彼女の制服は女性のそれなので、碧の物ではないことは確かだ。
そしてよく見てみると襟元には1‐3と書いてあるように見える。
月島は軽い目眩を覚えた。
もしかしたら、これは、
「あ、これ?ちょっと借りてたみたい。コスプレじゃないよ」
月島の視線に気がついたのか、碧が軽く学ランを持ち上げて見せると、その襟元にはやはり1‐3と書いてあった。
間違いない、これは自分とウマが合わないあの王様のものだ。
「へえ、王様の」
「よくわかったね」
誰のものか言っていなかった碧は、月島が学ランを影山の物だと言い当てたことに目を丸くさせる。
意外とこの二人は仲がいいのではないか、と的外れな憶測と共に。
「僕、返しておきましょうか?」
「ホント?じゃあお願いします」
できるだけの笑顔を彼女に見せると、その裏に隠された意味を察することなく、碧は学ランを月島に渡した。
「じゃ、また体育館でね」
笑顔で手を降る彼女に、月島も控えめに手を降ると、学ランを持ったその手に力を込めた。
「(さて、どんな風にからかってやろう)」
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