ガララララッ―――

碧がジャージに着替え終え体育館の扉を開けると、いつもの部員たちに交ざって久しく見ていなかった黄色い鶏冠が揺れた気がした。

「あ、御輿さんちわス!」
「碧、今日は早いね」

彼女に気がついた日向と菅原がこちらを向いて声をかける。
が、碧の視線はその先を見ていて動かない。

「お、なんだ。碧が来たのか?」

それはやっぱり、碧が好きで好きで止まないあの人だった。(もちろん恋愛感情ではない)

「西谷くん…!」

そう言うや否や、碧は忍者の如く俊敏な動きで『西谷』と呼んだ彼に近づき、そして彼の小柄な体を力一杯抱き締めた。

「うぐっ…!」
「西谷くん久しぶり!」

彼『西谷夕』は烏野高校排球部のれっきとした部員で、守備専門の『リベロ』というポディションを任されている。

だからというわけではないが、彼は一般的な男子高校生と比べるとだいぶ小柄だ。
160センチに満たない西谷と、178センチある碧が並ぶと、なんだか不思議な感じがする。(錯視絵を見ているようだ)

そんな彼が、碧は大好きだ。
自分にファンが付いているように、碧は西谷のファンなのだ。

「御輿、そろそろ離してやれ」

感動の熱い抱擁を(一方的に)していると、澤村がポン、と碧の肩を叩いた。
その顔はだいぶ呆れている。

そろそろ部活も始まるし、碧は名残惜しそうにその腕を緩めると、西谷の口から何か魂みたいなものが出ているのが見えた。(気がする)

「ご、ごめん、西谷くん」
「ああ…大丈夫だ…」

自分の腕の中で脱力している西谷を、碧は心配そうに見つめる。

そんな碧を菅原は澤村の隣でじっと見ていた。
その目はいつもの穏やかなものではなく、獲物を狩るような鋭いもので、それが何を意味しているか、澤村には一目瞭然だった。

菅原はふぅ、と短く息を吐くと(まるで自分を落ち着かせるように)一歩、碧に近づきその華奢な背中に全力で抱きつく。

「碧ー!俺もかまってー!!」
「ぅ゙っ、!」

ドッ、と感じた突然の重みに、碧は西谷もろとも倒れそうになるが、一歩踏み出しそれを耐えた。
腰に嫌な衝撃が走った。

他の誰かだったら許さなかったかもしれないが、飛び付いたのが親愛なる菅原だと認識すると、その重みが、温もりが褒美にさえ感じた。

「御輿さん僕も〜」
「っ…!」

いつの間に来ていたのだろうか。
次に聞こえたのは月島の声で、その声が聞こえたと思ったらまた背中に衝撃が走った。

男二人の体重を支える筋力など、見た目は男、体力は女の碧にあるはずがなくそのまま倒れそうになる。

か、自分の腕の中には大好きな西谷がいるため、このまま倒れたら確実に彼も巻き添えになってしまう。
それは避けねば、と背中に乗った連中を支えている脚を全力で踏みしめた。

「西谷、くん、に、げて…」

5秒くらいは耐えていたが、脚の限界を感じた碧は腕の中にいる西谷だけでも守らねば、と慎重に彼を抱いていた腕を解く。

その頃には西谷もすっかり覚醒していて、あまりにも必死な碧の表情を見て声を荒らげた。(あまりにも必死な碧の表情を見てからかいたくなった)

「そんな、碧を置いて逃げるなんて…!」
「そういうのいいから、早くしろ」
「あ、ハイ」

西谷の遊び心は碧にギッ、と睨まれ一気に萎んでいった。
彼が退き、碧の体力が限界に来たのはほぼ同時で、烏野高校の第二体育館に一つの小さな悲鳴が木霊した。(菅原と月島はうまく避けた)

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