「ナイス旭っ!西谷もっ!」
あの掛け声で東峰へトスを上げた菅原のボールは3枚ものブロックを破壊し、自身の心に聳え立った大きな大きな壁さえも打ち砕いた。
「…お前らも……、ナイストス、スガ…西谷も、ナイスレシーブ」
本当にあのスパイクを打ったのかと思うほど弱々しい表情をする東峰に対し、二人は満面の笑みを浮かべる。
それには歓喜と安堵の色が見えた。
ああ、この問題はもう解決したのか、と碧はスコアをめくりながら雰囲気の変わった三人の関係を見て目を細めた。
おかえりなさい、エース。
「影山と月島と田中さんの3枚をふっ飛ばした…」
変わったのは町内会チームの雰囲気だけではない。
対する烏野チームの雰囲気も多少であるが変わった。
日向はブロック3人をふっ飛ばした東峰のスパイクに驚愕し憧憬の色さえ見せていた。
今の自分にはできない技であろう。(この先できるかどうかすら分からない)
そんな表情をしていたものだから影山に(嫌な方面から)心配をされ、それに大きな声で否定をする。
それが自分を鼓舞しているようにも感じた。
対する澤村と田中は嬉しそうに目尻を下げていた。
いや、田中はそれを通り越して涙さえ流しそうだった。
エースの復活、仲間の復活はとても喜ばしいことだが、烏野チームにとって東峰の復活は厄介なことこの上ない。(ただでさえ町内会の人たちに押されているというのに)
「田中、嬉しいのはわかるけど勝敗的には厳しいからね」
浮かれている田中にコート外から碧が釘を刺す。
良くも悪くも、この男は感情に流されやすいのだ。
「何言ってんだ碧!こっちには「こっちにはおれがいますよ!」」
「なんて?」
「日向かぶってんじゃねーかよ!せっかくの俺のカッコいい台詞がぐだぐだだよバカヤロー!」
ああ、大丈夫だな。
このやり取りで彼の精神状況を感じ取った碧は心配を何処かに放り投げた。
「そうか、頑張って」
二人に向かいグッと拳を作って前に出すと、二人共同じようなポーズを返してくれた。
信じてるよ、お前ら。
なんて、真似してみたり。
それから試合が再開して、町内会チームからサーブが打たれた。
それを縁下がレシーブして影山へと繋ぐ。
日向がポディションに走って、
ドパッ―!!
影山にボールが渡った、と思ってから一瞬の出来事である。
おそらく、瞬きをした者は見逃しただろう。
この速攻を初めて見た者たちは、何が起こったか分からないといった表情をしていた。
それはコーチである烏養も例外ではなく、サインも声掛けもナシで速攻を打てたことに驚愕をしていた。
疑問はたくさんある。
「なぜそこに跳んだのか」と烏養に問われた日向は、「影山くんのトスを信じて思いっきりフルスイングしているだけ」だと答えたが、さらに烏養の頭のなかは混乱したようだった。
言っていることが理解できないと言うよりは『それを行動に起こしてしまう心理が理解できない』と言ったほうが正しいかもしれない。
彼が考え込んでいる間にも試合は続いていく。
東峰がスパイクを決め、日向も負けるかと次々に決めていく。
『今度こそは』と月島と影山、そして澤村が阻み、町内会の人達も『負けてたまるか』と必死にそれを落とさずに食らいついている。
碧は毎回、このやり取りを見るたびに感嘆で呼吸ができなくなる。
自分には到底真似できない勝ちへの貪欲さ押し潰されそうにさえなる。
ピピ――ッ!
ホイッスルが鳴り響き1セット目が終了した。
床に叩きつけられたボールが勢いをなくして後方の壁へとコロコロ転がっていく。
コートチェンジしてもう一セット、その前に短いミーティングがあるだろうか。
碧が隅に追いやられたボールを拾うと一回り大きな影が重なって振り返る。
「…はい、ツッキー。お疲れ様」
「その呼び方やめてください」
彼もボールを取りに来たのだろうか。
山口が呼んでいる彼の愛称を口にすると、眉間にしわを寄せてあからさまに嫌そうな顔をされた。
「じゃぁなんて呼べばいい?蛍ちゃん?」
「もっと嫌です」
「じゃぁ蛍くん」
「…ん、悪く無いですね」
渡されたボールを受け取ると、満足したような表情でチームの元へと戻っていく。
月島は正直、どうしてあの場所に自分が行ったのか理解できなかった。
彼らのリハビリテーション
トラウマ[治癒]
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