ドシンッ―――!


菅原がトスを上げて、町内会チームに点数が入った。
試合《ゲーム》で彼のトスを見るのは久しぶりで、碧はなんだか変な感じがした。(前は試合の度に見ていたから)

澤村も菅原のトスに1年が感心している様子を見て、菅原が活躍している姿を見て、嬉しそうにしている。
それがなんだか嫁が褒められた旦那さんを見ているようで、少しだけ可笑しくなってしまった。



It is getting back to the original



一方東峰は後衛のポディションに突っ立っていてあまり自分から動こうとしていないでいる。
さっきからスパイクを決めているのは町内会の人たちで、東峰はまだスパイクを決めていないどころかボールに触った数が他の者より群を抜いて少ない。

ドスッ―――!

「よっしゃー!!」
「すげぇ跳んだな、おい」

烏野チームの日向と影山のコンビは得意の『見ない速攻』でガンガンと攻めている。
何度見ても息を飲むほど凄いがよく分からない攻撃だ、と碧は誉め言葉らしからぬ誉め言葉を心のなかで呟いた。

初めて目の当たりにする町内会の人たちは、その速さに感嘆の声を上げる。
東峰も驚いていたようだったけど、すぐに何かを噛み締め、次の瞬間決心したような顔つきになりコートを見据えた。

西谷が東峰の横を通り過ぎようとしたとき、すぐにピタリと止まって彼の方を振り向いた。
それから何か言葉を交わしたように見えたが、碧のところまでその声は届かなかったので、何を話していたかは分からない。
ただ、ポディションに戻った西谷の顔は柔らで落ち着いていたので、二人に良い進展があったのに間違いはないようだ。
また、元の関係に戻れるのもそう遠くない。
そう思うと心がなんだか落ち着かなくなり、暖かく、自然と笑みがこぼれた。

「そこのロン毛の兄ちゃん頼む!」

ドッ――

高く上げられたボールが東峰の元へと飛んでいく。
頼られるのに、ボールを上げられるのに未だ恐怖を覚えている東峰の顔は一瞬強張ったように見えたが、そのまま助走をつけてモーションに入る。

彼のことを知っている者の空気が、少しだけピリリと張り詰めた。

ドガガッ――!!

「(あ、)」

今まで聞いた中で一番重い音がしたが、それは相手コートへ落ちることなく、ブロックされ自陣へと落下する。
その一連の流れが、まるでスローモーションのようだった。

キュッ――

あの春の試合が、東峰の脳内を駆け巡る。
彼はくっと唇を噛み締め、悪夢の再来かと思ったであろう。
その表情は更に曇っていくのが、碧からもよく見えた。(見えた、と言うよりかは感じた、に近い)

でも、小さな彼は違った。
彼の悪夢を、エースのトラウマを払拭できるようそこにいる誰よりも早く反応した。

「西谷、くん…」

厚さ約2センチ、同年代の男子と比べたら一回り小さな手。
この2センチで、彼の呪いを断ち切る。
エースの命を、繋ぐ。

『ブロックフォローだな。まだうまくできねぇんだけど、これがちゃんとできればお前らも安心してスパイク打てるだろ』

ふと、西谷が口にしていた言葉を思い出した。

「(君はカッコいいよ。私なんかより、ずっとずっと。)」

落下したボールは西谷の手の甲を介して跳ね上がり、宙を舞う。

「―だからもう一回、トスを呼んでくれ!エース!!」

体育館の外にまで聞こえるのではないかという大声で叫び、東峰を見る西谷は懇願しているようだった。
自分の存在は貴方の為にあるのだと、そう言っているようにも聞こえた。
なんだか一つのラブシーンを見ているような錯覚にさえ陥った。
そんなことを思っていながらも、跳ね上がったボールは空を舞い、また跳ね上がり空を舞う。
時間は止まらない。
動き続けて、そのたびに苦しめられ、絶望し、

「スガァーっ!!!」

そして

「もう一本!!」

人はそれから逃れようと必死にもがくのだ。

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