「(ずいぶんと遅くなってしまった)」
碧は傾きかけた太陽の陽を浴びながら部室棟へ急ぐ。
携帯で時間を確認すると、もうすぐ5時半になろうとしていた。
当初の予定では15分ほどで終わるはずだったが、1時間半近くかかってしまったようだ。
きっと部活動はもうすぐ休憩の頃合いだろうか。
そうであればタオルやドリンクの用意等もある。
バレー部には碧の他に三年のマネージャーがいるが、彼女一人に任せるわけにはいかないとその足を速めた。
教室に迎えに来てくれたあの子だけならすぐに終わったのに、そのあと二人くらいに呼び止められ(しかも最後の子がお断りしたら泣き出してしまい、宥めるのに時間がかかってしまった)気がついたらこの時間で、そりゃため息くらいつきたくなる。
自慢に聞こえるかもしれないが、モテるというのも大変なのだ。
「(私は悪くない、多分)」
さっとジャージに着替え急ぎ足で第二体育館へ向かうと、そこに見慣れない二つの頭があることに気がついた。
一つは碧と同じくらいの身長で、もう一つは大分小さい。
学校指定のジャージが真新しそうに見えるので、1年生だろうか。
近づくにつれその顔がはっきりとしてきて、ああやっぱり見たことない顔だ、と碧は彼らが1年生であることを確信した。
「君たちバレー部に入部希望?」
突如自分たち以外の声が聞こえ、話し合いに集中していた1年二人組はビクリと肩を揺らしこちらを見る。
そこには身長180弱くらいで、テレビの向こう側で見るような整った顔立ちの人物がいた。
着ているジャージからして自分たちの先輩にあたるのだろう。
少年二人が「ちわス」と頭を下げると、碧も「こんにちは」と小さく頭を下げた。
「入部希望ならキャプテン読んでくるけど…」
「あ、えっと、その、」
「(ひょろっちい…タッパはオレと同じくらいか…)」
碧は澤村を呼んでこようと体育館の扉へ手をかけるが、オレンジ色の髪をした少年がなんだか歯切れの悪い返事をするので首をかしげる。
訳ありなのだろうか。
「オレら、閉め出されたんです…」
それはそれは消え入りそうな小さな声で、オレンジ頭の少年が現在自分たちが置かれている立場を簡潔に説明してくれた。
閉め出されたなんて、入部初日にどんな問題行動を起こしたんだ。
碧は彼らが何をしたのか興味を持ったが、こんなところで立ち話なんかしたら部活が終わってしまう、とそれをグッとこらえる。
「そうかあ。まあ反省の色見せれば大地さんも許してくれると思うよ」
きっと怒られて萎縮してしまっているだろう後輩の心を癒すべく、碧は出来る限りの優しいオーラを放ち控えめに微笑んだ。
それは効果があったのか、暗い表情のオレンジ頭の少年の顔は一気に赤くなり、碧はよかったよかったと小さく頷く。
「あ、あのっ、オレ1年の日向翔楊ですっ」
「2年の御輿碧です」
一生懸命自己紹介をする様がなんだか可愛らしくて、思わず日向のそのふわふわなオレンジの髪の毛を優しく撫でる。
それは犬を撫でている感覚に酷似していた。
「君は?」
日向の頭を撫でながら、碧は視線を後ろでずっと黙って眉間にシワを寄せている黒髪の少年へと移す。
突然自分を見られて驚いた顔をしていたが、少年は「影山飛雄、セッターです」と簡素な自己紹介を済ますと、今度は碧に向かって「御輿さんはポジションどこすか」と尋ねた。
「私はマネージャーだよ」
「(私…?)男子のマネージャーもいるんですね!」
頭を撫でられていた日向が、先程の沈んでいる表情からうって変わってキラキラとした眼差しで碧を見上げる。
「ごめんね、期待させといてなんだけど、私一応女なんだ」
キラキラとしていた日向の笑顔がそのままピシリ、と固まる。
影山も呆気にとられているところを見ると、多分彼と同じく勘違いしていたのだろう。
ただ事実を言ったまでなのに、何だか悪いことをした気分だ。
男性に間違えられることは多々あるが、(むしろジャージを着ていると男性だと思われることのが多い)毎回事実を知ったときのこの空気の感じは好きになれない。
ピーッと長めのホイッスルが体育館の中から聞こえた。
休憩の合図だ。
「じゃあ日向くんに影山くん、またね」
彼らに小さく手を降ると、碧は体育館特有の大きく重たい扉に手をかけ中に入っていった。
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