体育館に入ると案の定ちょうど休憩に入ったようで、散り散りになっていた部員はドリンクやタオルを求め一ヶ所に集合していた。

碧は控えめにその輪の中に入ると、澤村を見つけ「遅くなりました」と頭を下げる。

女子生徒に対する碧の人気ぶりは痛いくらい理解している澤村は苦笑いを浮かべながら「毎回大変だな」と労いの言葉を彼女にかけた。

「お前一体何人に告られたんだ」
「(告白されたのは)3人」
「ふざけんな!一人くらい寄越せよ!」

あげられるものならあげるよー、と悪意丸出しの笑みで、彼女の肩を揺らすご立腹の田中を更に煽る。
縁下はその様子を『またやってるよ』と半ば呆れの表情で傍観していた。

「相変わらずの王子っぷりだね」

菅原はそんな二人の光景を、まるで猫がじゃれ合っているのに似ているなと感じ思わず頬が緩んでしまった。

彼の言う『王子』とは碧の事で、その誰もが振り向いてしまう美しい容姿と、誰にでも平等に振る舞う姿から女子生徒がつけた異名である。
それは烏野だけに留まらず、他校でも『烏野の王子』として浸透しているらしい。

それに彼女は読者モデルとして雑誌(何故かメンズの)に度々掲載されており、もしかしたら県外でも『王子』と呼ばれているかもしれない。

「そうだ、澤村さん。体育館の外に1年生が二人いたんですけど…なんですか、あれ」

ようやく田中から解放された碧が、先ほど疑問に感じたことを素直に澤村へ投げ掛ける。
すると和気あいあいとしていた場の空気が一瞬で凍りつき、碧は『何か地雷を踏んでしまったか』と顔をひきつらせた。

「あのね、碧、」

一向に再起動しない澤村の変わりに、菅原が彼女を自分の方へ引っ張ると少しだけ高い位置にあるその耳にコッソリと事の詳細を告げた。




「それは、キッツいですね…」

あの二人は澤村に怒られただけだと思っていた。
いや、当たってはいるのだけれど、それだけだったらどんなに良かった事か。

あの外に摘まみ出された1年二人は元々敵視していた存在同士で、入部早々険悪なムードでボールを打ち合っていたらしい。(正確には影山のサーブを日向が受けれるか試していたようだ)

その険悪さを感じ取った教頭に目をつけられ澤村が彼の対応をしている最中に、その頭部に豪速球サーブのこぼれ球をお見舞いした。
それだけならまだ良かったもの、その衝撃で教頭の着脱可能な髪の毛が宙を舞い、澤村の頭の上に奇跡的に落ちてきた。
神様が暇でももて余したのだろうか。

「それすごい見たかった(それは大変でしたね)」
「御輿、本音の方が駄々漏れだ」

碧は上がりそうになってしまう口角こそ抑えたものの、それに意識が集中しすぎて言葉の方が疎かになってしまった。
思わず出てしまった本音に慌てて澤村から目をそらす。

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