LosTIME Maker!

拙宅短編 エドガーとゼノ

   汚点

 深く濃い鉄のにおいが充満している。ここがシルバーアクセサリー店であることを差し引いても、この深さは異常だ。
 この不快なにおいの圧迫感に加え、打ちっぱなしのコンクリートの壁で出来た内装。最低限の明かりしか無いことも相まって、感じる息苦しさは相当なものだろう。一般人は恐らく耐えられない。

「やりやがったな、エドガー」

 店の奥。壁に寄りかかって血の海に沈む男が、唾棄するように漏らした。

「おや、元気そうですね。……気づいていらっしゃったかと思いましたが」

 吐き掛けられた側。エドガーと呼ばれた男は、とんでもなく熱無礼な口調でさらりと返した。この薄暗い店内でも、鮮やかなくすんだ血の色をしたエドガーの長髪が、ひどく目立つ。
 ヒュ、といびつな呼吸音が響き、命すら沈みかけの男が笑った。

「気づいてるに決まってら。単に悪態だ」
 体勢を変えようとした男が、激しい痛みに申く。ごぽり、オノマトペすら見えてきそうな勢いで出血して、瞬間だけ、男の首が傾いだ。

「ぐ、ッ……。……くそ、あいつ。致命傷を避けて撃ちやがった。お陰で死の淵を綱渡りだ」

 げほ、と血の海が広がる。

「ドッグファイトは彼に軍配、と」

 エドガーが面白げに微笑む。そんな彼に、男は「とんでもねェ狂犬だよ、あいつは」と、吐息交じりにくつくつと喉をわせた。

「でしょうね」赤髪の犬が目を細める。「あれだけ掘っても底が見えない腹を持った男は、俺も初めてです」

 珍しく賛辞を口にしたエドガーに、男が穏やかに返す。ぜえ、ぜえ、と荒くなる息の合間を縫って、少しずつ。

「うん、いい犬だ」ぜえ、ぜえ。「——そのうち、テメェも噛まれるぜ」

 ぱち、とエドガーが隣きをした。「はは」と、わらう。それから、瞳を弓形ゆみなりに歪めて男を見下ろした。

「ご忠告、感謝しましょう」
「本気にしてねぇな?」

 瞬時に男が鼻を鳴らした。半分以上、煽るようなそれだったが、エドガーは意に介した様子もなく微笑んだ。

「ゼノ。あなたは随分……意識が朦朧としていらっしゃる」

 煽り返すようなそれに、息も絶え絶えな男——ゼノが、至極真面目に返した。

「おい……舐められちゃ、困るぜ。五年くれえ面倒見たんだ。テメェよか、知ってる」
「そうですか」

 微笑をたたえた顔で、なんでもないように小首を傾げたエドガーに、ゼノはやれやれとばかりに瞳を閉じた。荒かった呼吸が、次第に細く、弱くなっていく。
 綱渡りを一生、続けることはできない。ぐらぐらと身体も意識も揺らいでいるのが、はたから見ても分かるほどだ。

「さて……これで。晴れて、あいつは『行き場がなくなった』。よかったなァ、エドガー。……テメェの思惑通りだ」
「ええ、喜ばしいことです」
「精々、厳重に首輪をかけておくこった」

ひゅう、と味を通る息の音が、嫌に大きく響いた。

「エズの躾は難しいぜ?」


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投稿日:2025/06/03
最終更新日:2025/06/03

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