LosTIME Maker!
拙宅短編 花灘睡
睡蓮
ぱち、と目を開ける。
先日かなり動き回ったためか、極限まで疲労を蓄積していた身体だったが、十分な睡眠を経た今、疲労が嘘のように無くなっていた。
ぐい、と伸びをする。ふわふわとした思考のまま周囲を確認すれば、墨色の髪をした少女の、くすんだ金の瞳がこちらを向いた。
「わ、小鷹ちゃん。来てたの」
「今更だろう。それに、私は気にしたりしない」
……弱冠十七歳にして、この貫禄。きっちりと結い上げられたハーフアップの髪は、彼女——古金小鷹が小首を傾げたとて揺らがない。
「私は睡ねぇさまに、おしめを変えられたこともあるんだ。それに比べたら些事だろう」
「それはそうかも」
思わず神妙に頷いた。
それから——会話が途切れ、シンと静寂が落ちる。
お互いに、ただ無言で、そっと相手の様子を伺う。
西日が、ひどく眩しい。
「睡ねぇさま、二十九時間も眠っていた」
少女の声は硬い。
金属のように感情の読めない小鷹の瞳が、睡の視線を絡め取った。
「……小鷹ちゃん」
思わず、宥めるように返してしまう。
小鷹は首を振った。短いハーファップが少しだけ揺れる。目を閉じて、深呼吸をして。
「だいぶ長く眠るようになったな。.....若々しさの秘訣は睡眠か?」
「小鷹ちゃん、」
「安心しろ、
しっかり休めよ、と言い残して小鷹が部屋を去る。
自分の身体が憎らしいな、と睡は溜め息を吐いた。
……小鷹が皮肉のように言葉をぶつける時は、彼女自身の内に、やりきれない思いを抱えているときだ。
それでも、次に会うときにはフラットな状態で接してくれるのだから、本当に出来た子である。
ゆっくり身体を起こした睡は、遅すぎる身支度を始める。
福祥を着て、帯を巻いて。袖のほつれを見つけたように手首を持ち上げて、独り言ちる。
「ああ……まだ、ほつれてる」
もう少し眠らなければ。
投稿日:2025/06/03
最終更新日:2025/06/03
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2025/06/03 更新