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althaea0rosea

私の恋人は狂っている。
どのくらい狂っているかというと、今すぐにでも頭のお医者さんに診てもらったほうがいいくらい。大真面目に。さすがにそろそろ連れて行かなきゃ……もちろん、私も付き添って。

「なあ、あんたはっ……チリちゃんが、自分のこと、どんだけ好きか、全然分かって、へんのやろ……」
「っあ、……ん、っ、ん……っ」
くちゅ、ぐちゅ。いやらしい音を立てながら私のナカを動くそれは、チリさんの細くてしなやかな腰に装着された、おとこのそれを模したもの。両脚の裏を押さえつけられたことであらわになった秘部に、太くて硬い物体をずぷずぷと出し挿れする行為はまるで男女の営みのようだけど、実際に今ここにいるのは、正真正銘、女と女。……正確にいえば、狂った女と狂わされた女だ。
「だから、いつも、いつもいつもっ、いつもこうして、毎日、毎晩、教えこんでやってるっちゅうのに……なまえは、どないして、また知らん女引き連れて仲良くデートなんかに、行きよる……どういう、つもりやねん……っ」
ぐち、ぬち。挿入された無機質な棒が、律動の度、体の奥の、奥の奥の、触れちゃいけないところを何度も何度もノックする。私の上で何か言っているチリさんなんか無視して、快楽に身を委ねた。だってそれくらい気持ちいいんだもん。
「ん、や、……ぁ、あぅっ、きもち、い……きもちい、……、……っ、ん」
きもちい。きもちい。くるしい。きもちい。自分のものとは思えないくらい甲高い声が出てしまうから、うるさくて自分の手で口を押さえた。でもすぐに手首を捕まれて、シーツに押し付けられてしまう。なんだか目を鋭くしてガン飛ばしてくるチリさん、ほとんど頭突きをするように顔を近づけてきた。
「……ああ?無視するんや、ないわ……っ、この、クソアマ……、つぎ、やったら、殺したるって言うたよなぁ……、っ」
「ひ、あ……っ」
ぞくぞく。組み敷かれ、為す術もなく、快楽にもがく私のからだ。途切れ途切れに、吐息混じりの、チリさんのあたたまった声のせいでぶるりと震えてしまう。チリさんのお顔がちかい。耳の近くで喋っちゃだめっていつも言ってるのに、きもちいいから文句のひとつも口に出せない。それ狙ってるんだ。ずるい。これ以上よくしないでください。しんじゃう、わたし、死因がセックスなんてやだ。
「でもな、チリちゃん、あんた殺す方法、ぜんぜん思いつかんの、だって、一回殺ったらオシマイやんか……げんきのかたまりも、効かんし、なんやねん、あれ、使えんわ……」
「は、は、っ……っん、やっ、……ん」
「はぁ、ったく、何か喋れ!言い訳でも、謝罪でも、なんかしら、あるやろが……!」
交際を始めてから数え切れないほどたくさんの行為に及んだこの肉体は、既に限界まで調教されてしまったみたい。ほんの少しの刺激でも、大きな快感を拾ってしまうから、もうだめ。だめ、だめ、何を話しかけられてもぜんぜん頭がうごかない。チリさん、おこってる。でも言葉がぜんぜん出てこない。
「……」
ついに、痺れを切らしたチリさんが、舌打ちと同時に腰を掴んで持ち上げて、強く、強く、打ち付けてきた。
「!あぁあっ、だ、めっ、それ、ッ」
途端に全身をかけめぐる、10まんボルトみたいな強い刺激。瞬く間に目がチカチカして体が仰け反った。それでもチリさんは止まらない。急激な快楽の応酬に、頭が沸騰しそう。
「あっ、だ、だめ、それっ、も、ごめ、なさ……っ!や、だめっ!……っチ、リさんっ、ぁん、っ!」
「……」
がちゃがちゃ、おもちゃ特有の音を鳴らしながらいっぱいいっぱい打ち付けてくる。心の準備をする間もなく、あっという間に快楽のピークを迎えて頭が弾けた。パーンって。
「ぁ、っ〜〜〜!い、った、いってるっ!チリさ、……!」
でもやっぱり止まらない。チリさんは私の腰を爪が食い込むくらい強く掴んで、逃げないように体重をかけてくる。怒ってるのにいかにも冷静みたいに、白けた目で私を見下ろしている。
「勝手にイクな、ボケ」
そう言いながら私の気持ちいいところを容赦なくいじめてくるんだから、私はもういっぱいいっぱいだった。イキ狂った。悲鳴のような喘ぎ声が出てるのに、抑えようと配慮することなんてもうできない。そんな場面で、チリさんはどこからともなくビデオカメラを持ち出して、乱れまくった私の姿にレンズを向けた。
「ほら、喋れ」
あ、それ、そこに置いてあったやつ、ずっと回ってたんだ……気づかなかった。私、今日はいつもよりすごい淫らに喘いでいた気がする。恥ずかしくってカメラを隠そうと手を伸ばしてみるけど、ゆさゆさ体を揺さぶられてるから全然意味無い。
「オラ、遺言、聞いたるからはよ喋れッ!いつも饒舌に女誘ってるその口、開けや!はよ!ほれ!それとも無理やり割ったろか……!?」
急に声を荒らげるチリさんに驚いて……ではなく、もう何回目かも分からない絶頂にまた体をビクつかせた。痙攣が止まらなくて、こんな状態じゃとてもじゃないけど喋れないってこと、考えなくても分かるだろうに、無茶な要求をしてくるチリさん、………………。あはは。
「……あは、あは、……っはぁ、あは」
イキながら、頭がおかしくなったみたいにけたけた笑い出す私を見て、……チリさんはようやく動きを止めた。止めたというか、動きを緩めただけだけど。おかげで刺激が減って、呼吸が楽に出来るようになったから、要望通り遺言を言うことにした。何もかも限界な私の口から出てきたのは、
「ち、チリさ……、あの、ね、わたし……」
ただのシンプルなおねだりだった。

「だいすき……今の、もっと、して……?」

ここにいるのは狂った女と、狂わされた女。
さあ、どっちがどっちでしょう?


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