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althaea0rosea

「ねーえ、チリさんに構ってもらうの、私だいすき。はやく、休憩終わり!もっと、して?」

チリさんが水分補給をする間、数分間放置されてる間に私はもう待ちくたびれてしまった。既にたくさんイカされたのに、ケロッとした顔をして続きを要求する。
そんな私を呆れた顔で一瞥したチリさん。悪びれもなく「いひひ」と笑うと、チリさんは静かに激高した。頭の血管をぶち破った。ベッドの上で立ち上がって、私の肩を蹴って押し倒して、そのままぐりぐりと足で踏みつけた。
「どの口が言うん?それ……」
「あ、ち、チリさ」
いたたたた。チリさん、その長い脚でベッドに立つと、天井に触れそうですごいなぁ、いたたた。それより、この、踏まれてる構図、大事なところが丸見えだし、ペニバンついたままなの、えっちだなぁ。いたたたた。
「謝りもせんで……自分、無敵か?いけしゃあしゃあと……誰に対しても同じ顔して同じこと言うくせに……いけずな女」
チリさん、いじけちゃった。いたたたた。
満足するまで、かかとでマッサージするみたいにぐりぐりと踏みつけたあと、チリさんは私の上から退いた。今度はベッドのうえのシーツとか服とかを、心底面白くないみたいに蹴っ飛ばしてしまう。足癖の悪いチリさん。私はむくっと起き上がって、返事をした。
「私……チリさん以外にこんなこと言わないよ?チリさん以外に『構って♡』なんて、そんなこと言わないもん」
「‪はぁ?嘘こくな」
「じゃあ、なんか証拠でもあるの?」
「出・た。自信満々に証拠要求するや〜つ。ほんまムカつくわぁ、死ね」
シンプル死ねきちゃ。
「だってチリちゃん聞いとったもん」
「なにを?」
「なまえが昨日何してたんか、どこ行ってたんか、何食ったんか、何着てたんか、――誰といたんか。チリちゃん全部聞いてもた」
「聞いたって……」
「あんたのスマホのロトム、脅したら素直にペラペラ喋りおった」
「ろ、ロトムさんになにしたの!?」
 あわてて自分のスマホロトムを手に取って呼びかけるが、ロトムはスマホの中に収まったままガタガタガタガタ震えている。チ、チリさんが……あのチリさんが、ポケモンにまで手を出すなんて信じられない。相当追い詰められていたのだろうか。
――私のせいで。アハ。
「あ?何もしとらんわ。ちぃっと質問しただけやんか」
「チリさん、いつも面接で子供たちに怖がられるの知ってる?質問、するだけなのに」
「…………ハァ〜」
チリさん、ため息ついてそっぽ向いちゃった。
かと思えば――次の瞬間、勢いのある回し蹴りが飛んできて、私の手の中のスマホが思いっきり蹴っ飛ばされてしまった。
「失せや!」
「ろ、ロトムさあああん!!!」
それはクローゼットの壁に当たって、無惨にも床に落下した。い、今の音、絶対画面割れた!液晶!スマホカバーも変えたばっかりなのに!慌てて確認しに行こうとしたが、チリさんの足がまた私を制止させた。とうせんぼうをするように、背後の壁にドンッと足をつかれたのだ。足ドンというやつ。
「どこ行くん。構ってほしいんやろ?んじゃ、そうしたる。チリちゃん、なまえにはごっつ甘いねん。知っとるやろ?」
「知ってるけど、ロトムさん……かわいそうだよ、さすがに……!」
「なまえさぁ、何か物言う余裕あんなら、どないして質問には黙ったまんまやねん」
脚を畳んで、ベッドのうえでヤンキー座りをするチリさん。素っ裸で、えっちなおもちゃつけてるのに、様になってるのはなんでだろう。
それはさておき……質問ね。それは、昨日の私の行動についてだ。チリさんがさっきからしつこく尋ねてくるのは、昨日チリさんが知らない間に、私が会った女の子たちのこと。

――私が昨日、女の子たち数人を誘って、ラブホに行ったことを、尋ねられている。

もういいか。もうたくさん問い詰められた、、、、、、、し、たくさん怒られた、、、、。チリさんの血管も大事にしたいし、そろそろ素直に言わないとこれ以上はもう何もしてくれなさそう、、、、、、、、、、なので、泳がせるのはここまでにしよ。
私はポロッと白状した。
「そりゃあ、その、だから、行きましたとも。ハッコウシティに新しく出来たラブホ……内装がカワイイって噂だったから、暇そうな子たち集めて、いっぱい楽しいことしたよ?」
「死に晒せ、このゴミカス、あほんだらァ」
チリさんって暴言の引き出しいっぱいあってすごいなあ。と、感心しながら補足をする。
「でも、やっぱりチリさんと一緒の方が楽しかったなぁ絶対……私ってやっぱりネコじゃないと満足できないや。ってことが分かったから、収穫はありました!」
「そこで、開き直るアホが、どこにおるん!?こんのバカタレ……ッ!」
「おえっ」
ありました!の「た!」の形で大きく開いた私の口に、その長い指を突っ込まれた。一気に三本。そのまま押されて枕に沈んだ私の上に、またさっきみたいに馬乗りになって、また急に叫び出すチリさん。
「悪魔の口や……ッ!こんなん、周囲の女そそのかして、たぶらかすだけの!あんたはチリちゃんの前でだけ喘いどったらええんや!そうやなかったら無くしてしまえ!こんなもん!」
口の中にチリさんの手が丸ごと入ってくる。舌を押さえ、喉の奥どころか食道にまで届かせる勢いで突っ込まれ、急激に酷い苦しみに襲われた。
「っ、ぅ、あぐ、……っ」
むせてるのに関係ない。体は咳き込もうとしてるのに、上手く出来なくて、苦しい。それなのにぎゅうぎゅうと自分の手を奥に詰めるチリさんの顔、ものすごく冷酷で肝が冷えた。
「昨日、食ったん、全部出せぇや。チリちゃんの知らんところで、食ったもん、全部出せ」
息ができない。全身に力が入り、足の指がピンと伸びる。今までで一番、命の危険を感じた。ああ、私死ぬかも。夢中で口の中をいじくりまわすチリさんを見つめながら、息絶え絶えに耐えていたら、すぐにいやなものがせりあがり……胃の中のものがドバァッと出てきた。
「っ!げぇ、……げほっ、……っう、ぁ、ごほっ、うげぇ……」
チリさんはその直前によだれまみれの手を引き抜いて、私の頭を無理やり横に倒した。モノで気道が塞がれないよう、次は体ごとひっくり返されてうつ伏せの状態にされた。ツンと鼻をつくいやな匂いに、また吐き気がして、低い声を出しながら体を丸めた。シーツのうえで、こんな醜態……チリさんのベッド、汚しちゃった。
全部を吐ききったあと、私は朦朧としながら必死に呼吸をした。ひゅーひゅー喉の奥が鳴る。生理的な涙が流れている。生きてる、私、すご〜い……。

そんな私の背中を、殺しかけたご本人さまが優しく撫でているようだ。その感触に、謎にまた涙が溢れてくる。色んなものでまみれた顔を少し上に動かしたら、チリさんは恍惚とした表情で、今日初めて笑った。にこ、と無邪気に。

「なまえ、あんたほんまに可愛いなぁ。その顔、唆られるわぁ……」


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