※終局クリア済マスター
「なまえちゃん、おいで」
私はどうやら夢を見ているらしい。または、誰かが化けてでもいるのだろうか。だとしたら、ずいぶん趣味の悪い、
多種多様な能力を持った英霊たちの集まるカルデアでは十分にありえそうなことだと少し自嘲じみた笑みがこぼれる。
「どうしたの?ほら」
ニセモノだとわかっていながらも差し出された手を取る。取るしかないのだ、貴方のその顔で、その声で、呼ばれてしまえば。
手のひらに伝わる温度は確かに熱をもっていて、ここに彼がいるんじゃないかと錯覚させられる。いや、今目の前には確かに彼がいるのだけれど。
「よくがんばったね。もう頑張らなくてもいいんだよ、なまえちゃん」
私を抱き寄せた彼は耳元でささやく。大好きなテノールが、幾度となく頭のなかで繰り返した彼の声が胸の奥にじんと響いた。
ぽろり、気づいたら頬をつたっていた涙は一度溢れれば留まることなくぼろぼろと零れる。
この人はホンモノじゃない。わかってる、わかっているよそんなことは。
だけど変わらない、何もかもあのときのままの彼がいま目の前にいるのだ。誰にこのひと時の幸福を奪う権利があるのだろう、
『もう、どこにもいかないで』
私はこれ以上考えることを放棄して、目を閉じた。
けたたましく鳴り響く目覚まし時計の音で目が覚める。
また、気づかないうちに眠ってしまったようだった。夢を見ていた気がするが、その内容はすっかり思い出せない。
『おはよう、ロマン』
枕元の彼に話しかける。もちろん返事が返ってくることはない、額縁のなかでヘラリと笑う彼はもうここにはいないのだから。
コンコンというノックの音に答えるとそこにはフォウを連れたマシュの姿が見える。
「おはようございます、先輩」
『おはよ、マシュ』
「顔色が悪いように見えますが大丈夫ですか…?」
『えっ、ホント!?全然だいじょうぶだよ』
「そうですか?あまり無理をしないでくださいね」
『うん。じゃあ行こうか、マシュ』
さぁ、今日も一日を始めよう、そこに貴方はいないけれど。