▼ Summer vacation. - 2
「零くん、海入らないの?」
「………焼ける。」
「まさか。日焼けを気にしてるの?それならもう、とっくに手遅れじゃない。」
「煩い。」
海に来たは良いものの、1番の目的であろう海水に浸からない俺とまいか。
簡単に言えば、俺が海に入ることを拒んでいるからなのだ。
海水に浸かる、ということはまいかがパーカーを脱がなければいけないわけで。
そんなことをしたら、せっかく言いくるめて俺のパーカーを着せ、無駄に出された肌を隠したのに意味がなくなる。
我ながら心が狭いとは思うが、そう思ってしまうくらいにはまいかのことを大切だと思いはじめていた。
俺が入らないのなら入らない、と言うまいかは無表情ながらもどこか不貞腐れた様子で砂をいじっている。
そんな姿すらもかわいらしいと思ってしまう俺は…、もう何も言うまい。
「これじゃあ意味がないわ。」
「まいかがパーカーを脱がないって約束するんなら、入る。」
砂浜に敷いたレジャーシートに座り込んで、「これじゃあ意味がないわ」と呆れるように呟くまいか。
だろうな、俺だってそう思ってる。
けれどそこであっさり「じゃあ入るか」なんて言ってしまったら、それこそあの行動の意味がない。
だからパーカーを脱がないと約束するのであれば、と言うと、まいかは少しだけ驚いたように目を大きくした。
なんとなく、バツが悪い。
「あら、そんなことを気にしてたの?」
「…悪いかよ。」
「いいえ?でもその言い方と理由だと、零くんが私のことを意識している…って言ってるみたいになるわよ。」
「っ!ち、ちが…っ、俺は別に!」
「まあ良いわ。私のボディーガードさんは煩いから、足元だけ浸かってくる。」
俺が気にしていたことを"そんなこと"で終わらせてしまうまいかに多少苛立ちながらも、それを肯定する言葉を返す。
するとまいかは「ふっ」と笑ったように声を溢して小さく笑みを浮かべた。
そして「私を意識している…って言ってるみたいになるわよ」とひどく楽しそうに爆弾を投下してくる。
それを慌てて否定するとまいかはゆっくりとした動作で立ち上がり、「それなら私は足元だけ浸かってくるわ」と言い残して海水の方へと歩いて行った。
「…人の気も知らないで、よく言う。」
つい否定してしまったが、たぶん俺は意識しているし、まいかのことが好き。
まともに女性と関わっていなかったから確信はないが、こうして海や祭りにデートのつもりで誘ってる時点でそういう気持ちはある、ということ。
まったく、本当に。
人の気も知らず、普段と変わらず飄々としているまいかはズルい。
今だってまだまいかの本心を読み取れないし、俺だけがそういう気持ちを持ちはじめているようで悔しくもあった。
無表情なりに楽しんでいる様子のまいかを岸辺からボーッと眺める。
悔しいし嫉妬もしたが、まあまいかが楽しんでいるのなら俺はそれで充分だ。
この関係がもっと良い方向に変わってくれることは、今後あるのだろうか…。
そんなことを思いながらも、俺はシートにごろんと寝転んだ。
ALICE+