男の子はか弱い女の子が好きという偏見があって、古風な家柄の加茂くんもそういう女の子が好きそうだなと思う。
だから、たまにちょっとだけズルをしてしまう。
「これ、凄く固くて開かない……んんー!」
訓練の休憩中。自販機で買ってきたばかりの未開封の缶ジュースをわざとらしく加茂くんの前で開けられないフリをした。実際爪に塗ったトップコートが少しでも取れないように指の腹でプルタブを引かなくちゃいけないのが難しかったりする。
「危なっかしいから私に貸してくれ──簡単に開いたよ」
「ありがとう……加茂くんの指、男の子らしい太さがあるのに器用だね」
「ナマエは指が細過ぎて折れそうだ。次から呪力を使って開けるといい」
「うーん……なんでも呪力で補ってたら筋力が育たなそうだからやめとくよ。握力鍛えようかな」
「それなら前腕筋を鍛えるといいらしい」
「ゼンワンキンってどこ?」
話の流れから腕の筋肉のことだろうとは推測できるけど、聞き馴染みのない単語に首を傾げて腕を上げてみる。
「そこのことだ?」
「ここ?」
加茂くんに肘より下の部分を指をさされたけど、わざとわからないフリをして腕の上の方を触ってみる。
と、加茂くんが「ここだ」と、指先でわたしの腕に触れた。
その瞬間、電流みたいに熱くぴりぴりしたものが身体を駆け巡り、顔が熱くなる。たまに意図せず体がぶつかることはあるけど、加茂くんが自分から、自分の意志で、触れてくれたことはなかったから、胸が苦しいくらいに脈拍が上がって体が硬くなる。
なんともないフリをして、「ここなんだ」と触れられたところのこそばゆさを誤魔化すように腕を摩った。
そうこうしているうちに担任の先生が戻ってきて、集合の号令がかかった。
急いで規定の位置に戻りに行く途中、加茂くんがわたしの方を向いて、
「私の術式には前腕筋が必要だ。一緒に鍛えてみるか?」
と大胆なお誘いをしてくれた。
◇
「桃ちゃん大変!加茂くんと手を繋げるかも!」
「二人にしては急展開だね。なんで?」
「一緒に腕相撲して握力鍛えることになったの!」
「なんで!?」
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