Hello Hellsalem's Lot

私は今、世界一治安が悪いと言っても過言ではないヘルサレムズ・ロット、HLに来ている。正直こんな危険な都市には来たくなかった。例え出張でも。
でも何だかもうどうでもよくなってしまった。此処で呆気なく死んでしまっても本望だろう。3年も働いている休みが月に2回しかないこのブラック会社に戻らなくて良いなら此処で死んだって構わない。それに今日で恐ろしくも、残業続きの(ピー)連勤目でもう倒れそうなくらい疲労が溜まっている。こんな今の状態では余計にそう思ってしまう。

そう思っていたけど、本心ではなかったらしい。

さっきから何やら大きな騒ぎが起き、瓦礫が飛び交うは、建物は崩れるはで本当に死にそうだ。
神様ごめんなさい!さっき死んでもいいって思ったのは嘘です!嘘でした!まだ死にたくないです!あの会社で死ぬまで働いてもいいから天国へは連れて行かないでください!お願いします!

「そこの人ー!危ないぞー!」
「え?」

すると突然後方から注意を促す声が聞こえ、なんだろうと思いながら上を向くと、大きな瓦礫が今まさにこちらへ向かってやってきて…いや、落ちてきている。
驚き過ぎて声は出ず、無意味だと分かっていても反射で掌を顔の前に出し庇うようにする。
目をぎゅっと瞑り、私は死ぬのかとそう覚悟を決めた時だった。

ドンっという音と共に掌に違和感を感じる。その違和感に硬く瞑っていた目をゆっくりと開くと、とても信じ難いような光景が目に入った。

「っ…!な、なにこれ…?!」

大きな瓦礫はなく、私の掌からは水のような、それにしては妙にライトグリーン色の液体が物凄い勢いで物凄い量が飛び出ていた。口をあんぐりと開けたままその光景を見ていると掌から出ていた液体は止まる。もうこれだけで十分過ぎるくらい驚いたが、この謎の液体は更に私を驚かしに来る。
なんと掌からでた液体はフヨフヨと宙に浮かんでいるのだ。

「な、なんなのこれ…」

謎の現象に目が釘付けになる。一体これはなんなのだろうか。何故行かんでいるのだろう。いや、その前に何故私の掌から出てきたのだろうか。私は純日本人、つまり純地球人。異界人じゃない。あぁ。考えれば考えるほど謎が深まるばかりだ。考えたくはないが自分に何が起こっているのか分からずなんだか気味が悪く、そして少し怖い為少しでも早く自分の身の起こっていることが知りたくて、嫌でも考えてしまう。
だがここの街に来てしまった以上ゆっくりと考えることなんて出来るはずもなくて。

「ち、ちょっとそこの人!早く逃げて下さい!」

後方から少年のような声で再び注意を促すような声が聞こえる。
そんな声にハッとする。すると、液体の向こう側に謎の人影が見え、更にはその人影の主と目が合ったようで液体の向こう側のシルエットが此方へと向かって来る。危険を察し青ざめる。すると突然浮かんでいた液体はバシャっと音をたてその場に落ち、此方へ向かってくるシルエットの姿が露わになる。人間なのかよく分からない姿だ。きっと異界人だろう。だがきっとこの人は絶対に今、私を襲おうとしている。逃げなければ。だが、ふと思ったのだ。

さっきの液体でどうにかならないかだろうかと。

本当に馬鹿げた考えだ。よく分からないものなのに、止め方はおろか、出し方も分からないのに。でも、なんだか試したくなってしまったのだ。

「い、一か八か…」

そう呟き掌を異界人らしき者に向ける。
….。想像した通り、何も出ない。一滴も。

「ちょっとアンタ!何やってんすか?!」

さっきの少年の声がする。
だが今はそんな少年の声をじっくりと聞いていられない。

「っ…!お、お願いっ!」

強く願い掌に強く力を込める。するとまさかの奇跡が起きた。
再び掌から…ではなく、先ほど地面に落ちた謎の液体が動き始め壁のように私の目の前に広がったのだ。
だがそれだけ。

「えっ…」

異界人らしきものはこちらに手を伸ばす。
これはもうどうにもならない。今度こそ死んでしまう。
だがそう思った時、異界人の手がこの謎の液体に触れた時、異界人の手が溶けたのだ。咄嗟に後ずさりをする異界人。

「っ?!」

本当に何なのだこの液体は。私の体には一体何が起きているのだろう。
あぁ…何だか急に疲れがどっと出てきた…。
体に力が入らない…。もうこのまま眠ってしまおうかな。

そうして、背後からこの出来事を見ていた少年、レオの驚きの声を浴びながらナマエはその場に倒れた。


2019/07/27