冷ややかな平穏
ある日後宮に超ど級の雷が落ちた。
貴妃である秀麗の怒りによってである。
「ほんっと信じらんない!!」
「ま、待つのだ!秀麗!!ちょっと話を聞いてくれ!!」
「聞く話なんかあるものですか!」
怒りで話も聞かずに背を向く秀麗と、慌てふためく劉輝。
そこに鉢合わせてしまった珠希。
珠希の姿を視界にいれた劉輝は、ぱぁっと表情を輝かせた。
だが、それを察した秀麗が彼女に駆け寄って先手を打つ。
「珠希!行くわよ!もうこんな場所にはいられないわ!!」
「珠希!!た、助けてくれ!!秀麗が、秀麗がぁ〜!!」
泣きながら珠希に駆け寄り抱きつこうとする劉輝に秀麗が全力で立ち塞がって阻止した。
「ちょっと!私の珠希に触らないでちょうだい!」
「ちょっと待った!!珠希は秀麗のものではないであろう!それに誰かのものにできるのなら余のものにしたい!!」
終いには左手を秀麗、右手を劉輝に掴まれ、”幼子達が母を取り合う”の図になっている。
状況を把握しきれていない珠希は困った顔でされるがままになっていた。
「はい、そこまで」
二人に掴まれている両の手に別の手が被さる。
後ろを見上げれば楸瑛だった。
「お二方とも、珠希を千切るおつもりですか?」
楸瑛の言葉に一瞬ぎくりとした二人から珠希をやんわりと引き離す。
「珠希、秀麗殿と一緒に室にお戻りなさい」
「・・・はい」
劉輝の縋るような視線に、大丈夫だからという想いをこめて頷きその場を後にした。
「主上、わざと秀麗殿を怒らせたでしょう?」
「・・・あんなに怒るとは思ってなかった、もう余の下へ戻ってくれないかもしれない・・・。しかも仮の、期間限定の貴妃だなんて聞いてない・・・」
池のほとりでこの世の終わりのように落ち込んでいる劉輝であったが、まぁバカなふりをしていたりと自業自得だったため的確な慰めの言葉も浮かばない。
ぽつりと呟かれた「珠希を余にくれ・・」という申し出には「無理です」ときっぱり断った。
楸瑛からしてみればこの二人の関係は謎だった。
違う世界からきたという珠希と彩雲国の王様である劉輝。
後宮で珠希を見つけるなり、彼女に抱きつき飛び込んだ様子を見たときにはとても驚いたものだ。
珠希に聞いたところ、可愛い弟のようなものだとは言ってはいたが、劉輝もそうだとは限らない。
「女性の趣味の良さは認めてあげますが、珠希はあげられません。せいぜいこれから秀麗殿に逃げられないように頑張ってください」
と、牽制して、早々と本題に入った。
あのあと、変わらず怒っていた秀麗を宥めていた珠希。
怒りが収まる気配が全くないため、解決するにはもう少し時間が必要かと思っていた頃合いに藍家からの迎えがやってきた。
「絽香が来るなんて、珍しい・・・」
彼女は武芸も嗜む藍家の家人である。時々護身術を教えてもらっていたりしていた。屋敷の外で一緒にいることは初めてかもしれない。
「そうでしょうか?今日は早く邸へ戻るようにと楸瑛様が申していましたので」
さぁお早く、と、急かされた珠希は少しの違和感を感じたが、絽香が何とでもないような笑みを返してきたため、それ以上考えることをしなかった。
次の日、登城した時にその違和感が正しかったことを知ることになる。
20161115
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