茶化す


「で、いつまでそのままでいるわけ?お二人さんは」
「私としては今更引き下がるわけにはいかないので、彼女次第でしょうね」

呆れ混じりなその口調は大好きな新一の話し方だが、それどころではない沙耶は目の前に差し出された右手を困ったように眉根を寄せて見つめる。
右手を差し出している人物は、沖矢昴。赤井秀一が変装しており、現在工藤邸に住んでいる男だ。
コナンに誘われるがまま、わーい!と呑気に工藤邸にやってきたはいいものの、彼の存在を今まですっかり忘れていた。
アニメで見てたときから、彼に対しては苦手意識があったのだ。赤井秀一だからではない。この沖矢昴の風貌に。

リビングでくつろいでいた彼と遭遇した瞬間、しまったと感じたがもう遅かった。
「やぁ」と挨拶する沖矢に、「あぁ、昴さんいたんだな」とコナン。一瞬動きを止めた沙耶を見て「そういえば二人は初めましてだっけか」と、間に割って簡単にそれぞれの自己紹介を述べる。沖矢はソファーから立ち上がり、よろしくと握手を求めてきた。
手を差し出した瞬間、沙耶の表情が僅かに強張ったのを沖矢は見逃してなかった。沙耶が沖矢の手をとらないまま、話は冒頭に戻る。


「あー・・・、沙耶、昴さんは怪しい奴じゃないから安心しろよ。」

昔から鈍感そうに見えて妙に感が鋭い彼女のことだ、灰原が黒の組織の気配に敏感なように、沖矢に対してなにか感じとっているのかもしれないと予測したコナンは沖矢を擁護した。
いつもならコナンの言葉を漏らさず聞き入れ肯定してくれるのに、今日の沙耶は頑として動こうとしない。どうしたものかと模索し始めたとき来客を知らせるベルが鳴った。

「は、はーい!」
と、気まずい空気のままコナンは玄関に向かう。残された二人、動いたのは沖矢だった。

「で、私はいつまでこうしていればいいんでしょう。はじめまして、よろしく、の時は握手、と、あなたが育ったアメリカでは常識だと思ったんですけどね。」
初対面なのにちくちくと嫌味を感じる。更に、「ほら、コナン君が戻る前に済ませますよ。彼の手前仲良くしておいてください」と。
確かに彼は赤井秀一であり、コナンの敵ではなく、むしろコナンと目的は同じ協力者である。
これから先コナンと一緒にいるのなら直接的ではなけれど関わらなければいけない人物であるのだから、気まずい関係でいたくないのは沙耶だって同じだった。
意を決しておずおずと彼の手を掴もうとすると、指先が触れた瞬間ぐいっと手を掴まれた。

「っ!!?」

身体が沖矢の方に傾き、前髪越しに何かを充てがわれる。
同時にちゅっというリップ音が聞こえたため、何をされたか脳が理解した瞬間、空いていた左手をぐぅにして殴りかかった。

「すみません。あまりに警戒されるものだから、可愛くって、つい」

殴りかかった手は呆気なく掴まれ、全く悪気もなさそうに口先だけで謝られた沙耶の血管はブチ切れそうになった。

「つい、で、こんな事していいと思ってんの!!??」
「理由があったらいいと?」
「よくない!それだったら世の中の痴漢が許されることになるでしょうが!!」
「おやおや、痴漢扱いですか」
「さっきのが痴漢行為じゃなかったら一体なんなのよ!」
「・・・随分仲良くなったみてーだな」

リビングに戻ってきたコナンは二人の様子を見て乾いた笑みを浮かべた。
「コナン君!」と駆け寄り抱きついてくる沙耶をいつもと違ってすんなり受け入れたのは、彼女の瞳が少し潤んで見えたから。
コナンは楽しげにこちらを見ている沖矢に向かって「あんまりこいつをからかってやらないでくれ」と言いながら沙耶の頭を撫でる。
「では、お詫びに美味しいケーキとお茶でも用意してきましょうか」と沖矢がリビングを出ていったのを見計らって、コナンは気になっていたことを口にした。

「んで、おめーはなんで昴さんのこと警戒してんだ?」
「警戒ってゆうか・・・」
「言い方変えると苦手、か?でも初対面だろ?」

コナンにとって沙耶と沖矢には、仲良く、とまではいかないが、円滑な人間関係を築いてほしかったため、できる限り確執を無くしたかった。
言いずらそうにしている沙耶に視線を合わせる。
コナンの丸い瞳にじっと見つめられた沙耶は、バツが悪そうに唇を噛んだ。

「・・・細いのが、だめなの」
「・・・は?」
「目が細いのがだめなのよぉ〜!あの何考えてるか分からないとこ!」

なんだよそれ、とコナンはがっくりと肩を下した。

「・・・それ昴さんに失礼だろ?」
「だから面と向かって言えなかったの!それにあの人ね、見た目通りに」

性格悪いと続けようとしたが、沖矢がリビングに戻ってきたため沙耶は口を噤んだ。
そして、コナンの隣をぴったりと陣取り、絶対近づくものかと心に誓った。

20170217

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