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部屋に戻ると今までに向けられたことのない満面の笑みで迎えられて動揺した。

「安室しゃ〜ん!!」
「は、はい?」

ひらひらと手を振って、破顔する彼女はソファーにぐてーんと寝そべっている。
全く警戒心のない様子の原因がテーブルの上にあるボトルであることを察した安室は、困ったように息をついた。

「これ結構度数強かったでしょう?ストレートで飲んだんですか?」

沙耶は安室の言葉にきょとんとした表情を一瞬見せ、「どすう?すとれーと?なにそれ〜!」と、けらけらと笑い出した。
明らかに酔っ払いの言動である。
まさか、と安室は頭に過った考えをそのまま彼女に問いかけた。

「まさかと思いますが、お酒飲んだことあります?」
「はじめて〜。これおいしーねぇ」

幸せそうにボトルごと口につけて飲み始めた沙耶を慌てて止める。
二十代も中盤に差し掛かるであろう彼女がまさか飲酒をしたことがないなんて。
ボトルを取り上げられた沙耶は頬を膨らませて「かえして〜!のみたいぃ〜!」と安室に抱きつくように掴みかかってきた。
まさかこうまでして取り戻そうとしてくると思っていなかった安室は、バランスを崩し、沙耶を抱えたまま後ろに倒れこんだ。
ボトルはほぼ空に近い状態になっており、距離の近い彼女からはお酒の匂いがする。
初めての飲酒でここまで飲んで大丈夫なのか?と心配になった安室は、「大丈夫ですか?水を飲んだほうがいいと思うので用意してきますね」と声をかけながら、テーブルにぶつからないように沙耶の身体を横にずらそうと背中に手を添えると、沙耶は眉根を寄せ不愉快そうな表情を浮かべ「コナン君呼んで」と、訴えてきた。

なぜこの場でコナンなのか。
というより、基本彼女とのやり取りには必ずと言っていいほどコナンの名前が出てくる。
関係性を疑問に思ったことがあり、一度聞いたことがあるが、さらっとはぐらかされたことがある。
今なら答えてくれるだろうか、と沙耶を抱えたまま上半身を起こした安室は、いつのまにか泣きそうになっている沙耶に目を合わせて問いかけた。

「なぜコナン君を?」
「安室しゃんにジュースとられたって言って怒ってもらうの」

ジュースじゃないと言いたかったが、酔っている彼女には何を言っても無駄だろう。
それより色々素直に答えてくれるのなら聞いておきたいことがいくつかあった。

「コナン君は沙耶さんとどういった関係?」
「んー?しょうがくせーと、おとな?」
「うん、そうだね。なんでそんなにコナン君のことが好きなんですか?」
「かわいくて、かっこいーから!」
「いつからコナン君と知り合いなんですか?」
「小さいころからかなー」
「・・・コナン君は何者ですか?」
「んー?コナン君はコナン君でしょ?」

素直に話してくれるのはいいが、いまいち要領を得ることができない。
コナンの話になって機嫌がよくなったのか、先ほどまでの泣きそうな顔は一転して晴れた表情をしている。
怪しいところもないし、演技をしている風でもない。コナンの推理や洞察力が小学一年生にしては突飛していたことに対して少々勘繰りすぎたのかもしれないな、と安室は内心ほっとする。
膝の上に座り、いつになく素直でにこにこと満面の笑みでいる沙耶。
ころころと変わる表情は、普段の彼女に対して今の自分には見いだせないものであろう。
お酒のせいだと分かってはいるが、自分に懐いているかのようで、だんだんと可愛く思えてくる。

「君は酔っていても相変わらず僕に興味がないんですね」

彼女の頭を撫でながら、意図せず漏れた言葉に自分で発しておきながらはっとした。
何度か目を瞬いて、安室に言われた言葉を理解した沙耶はにへらと笑んだ。

「安室しゃんのこと好きですよー」

ガラにもなく一瞬ドキリとするが、次いで言われた「美味しいご飯作ってくれるから」という付け足しに、正直若干落ち込んだ。

「でもねぇ、私が一番、」

眠くなってきたのか、とろんとした瞳がゆっくりまばたきをする。

「好きなのは」と、呟きながら、眠気に負けて意識を失ったのか、そのまま安室に凭れ掛ってきた。どうせ続く名前はコナンなんだろう、と勝手に思いながら自分の胸元で眠り込んだ沙耶の髪を梳く。
口角は緩くあがり、幸せそうな寝顔で彼女の唇から漏れた「しんいち」という言葉に、安室は思わず動きを止めた。


20170302

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