柄じゃないけど君のために
title by Catch sight of



 今日は新しい年になって、初めてあいの家を訪問した。彼女は仕事だが、俺は一日休みだ。前日が遅くまで収録だったため、自宅で仮眠を取った後、彼女の家にやってきた。

 昨日、明日はオフだから家に遊びに行っていいか問うメールを送ると、すぐに返事が返ってきた。

「せっかくのお休みだから、体休めてね。でも、会えるのは嬉しい」

 そう記された文面を見て、自然と顔が綻ぶ。まず俺のことを考えてくれた上で、あいの正直な気持ちを伝えてくれたこと。それが俺と同じだってことが嬉しい。だから、こんな柄じゃないことしちゃったのだろう。


 時刻は夕方。外は暗くなり、さっき届いたメールによるとそろそろ彼女は最寄りの駅に着く頃だ。駅からは歩いて十分。もう少しで彼女に会える。弾む気持ちを抑えながら、最後の仕上げに取りかかる。

 テーブルには、気持ちばかりの俺の手料理が並ぶ。あんかけチャーハンに味噌汁、今が旬のぶりの照り焼き。彩りとか栄養バランスとかも考えられたらいいんだけど、そこまで料理が得意でない俺にとっては、これが精一杯。事前にレシピとか調べておけば良かったんだけど、料理作ってあいの家で待ってようって思いついたのが、出かけた後だったから仕方ない。次の機会があればもっと違う料理を作ろう。そんなことを考えながら、炊きあがりを知らせる炊飯器を開け、ご飯を混ぜた。

「ただいま……って、智くんいらっしゃい!」

 玄関にある俺の靴を見つけたあいが一瞬で笑顔になって、俺へ声をかけた。その顔が可愛くってそのまま食べたくなるのを我慢して、軽く唇を重ねる。

「あい、お帰り。会いたかった」

 いつもは言わない言葉もすんなり口から出てくるのも、くすぐったいけれど悪くない。

「っ! ……私も」

 恥ずかしそうに少し頬を朱く染めた彼女が、小さな声で返すからもう一度唇を掠めとった。

「何だかすっごく良い匂い……もしかしてご飯作ってくれたの!?」

 靴を脱いで先にリビングへ入ったあいが目を丸くして振り返る。その驚いた顔に、準備して良かったなと心から思った。

「いつもあいが作って待っててくれるでしょ? 今日はそのお返し。たいしたものはできないけどね」

 俺の言葉に納得したように頷きながら、弾んだ声がとんでくる。

「夕飯の材料は買ってこなくていいって言ってたから、何かデリバリー頼むのかと思ってた。すっごく嬉しい! ありがとう」

 あぁ、この顔が見たかったんだ。誰かのために料理を作って待つなんてしたことのない俺が、こうして頑張ったのは全部君のため。

「着替えておいで。冷めないうちに食べよ」 

 彼女を洗面所へと促して、俺は夕ご飯の配膳に取りかかる。とは言っても品数も多くないし二人分だからすぐ終わるんだけど。

「うわぁ、美味しそう!」

 すぐさまリビングへ戻ってきた彼女から感嘆の声が上がった。

「じゃあ食べよっか」

 微笑みかけると、大きく頷く。

「いただきます」

 丁寧に両手を合わせて挨拶し、彼女はお箸を手に取った。


「あー、美味しかった。智くんの料理、久しぶりだなぁ」

 目の前に並ぶお皿はどれも綺麗に空になった。少し量が多いかと心配したけれど、二人で食べるご飯は美味しくて思いの外箸が進んだ。

「俺も作るの久しぶり」

 一人の時は自炊なんて滅多にしない。テレビ局でいただくお弁当や帰りにコンビニで食料を調達することがほとんどだ。

「一時期、あんかけチャーハンよく作ってたのに?」

 彼女の問いに昔を思い出して小さく笑う。確かに一時、チャーハンにはまって色んな種類のチャーハンを作っていたことを思い出した。

「味、変わってない?」

 悪戯っぽく問いかける彼女へ質問で返す。

「相変わらず美味しい」

 あの頃の味を覚えてくれている人がいる。変わらず側にいてくれる存在がある。そのことが俺の胸を熱くした。


「あれ? 智くん、もしかしてこの胡蝶蘭も……?」

 夕飯が終わり、ご馳走になったからと片付けを買ってでた彼女が、洗い物で冷たくなった手を擦り合わせながら炬燵に潜り込んだ。今まで見えにくい場所に置いてあったもう一つのプレゼントに気づいたみたい。

「うん。新年だから華やかなのがいいかと思ってね」

 彼女が見つけたのはピンクの胡蝶蘭。鉢植えのそれをマジマジと見つめていたあいの視線が一点で止まる。

「え……」

 その先には鉢植えにささっているカード。買ったときについていた『胡蝶蘭』という名前の裏に記した俺からのメッセージ。

「見つけちゃった?」

 何度も頷くあいを引き寄せる。抵抗なく俺の胸に収まる彼女の髪をゆっくり撫でた。頬に手を添え、視線を絡める。小さく微笑むと思いを唇にのせた。


「あなたを愛してる」


 はっきりと告げて少しずつ距離を縮める。二人の唇が重なる直前、彼女が目を閉じた。


 君のために料理を作って、柄じゃなく花なんて買ってみたりして。

 俺らしくないって分かっているけれど、君を想うとこんな風になってしまう自分は結構悪くないと思う。

prev / next
better tomorrow