君のキスはいつも短い
title 確かに恋だった



 俺の彼女はしっかり者だ。周りの友人に聞けば口を揃えてこう答えるだろう。のんびりしている俺にはぴったりだと言う友だちも多い。

 てきぱきと物事をこなし、段取りよく作業する様子は時に惚れ惚れするほどだ。特に料理をしている彼女は生き生きしている。次に何をしてどんな風に動けば効率よく仕上がるのか。そんなことを考えているように見える。そうやっててきぱきと動く彼女を見るのはとても好きだ。でも、時にはゆったりと過ごせばいいのにとも思ってしまう。俺といるときくらい。

 彼女のことだ。一緒に過ごせる時間が少ないからこそ充実した時間を過ごしたい、とでも思っているのだろう。共に過ごす時間は無駄なく構成され、美味しい料理に快適な空間が用意される。

俺のことを思ってくれるのは分かるし、邪魔したいわけでもないんだけど、ついついちょっかい出してしまうのは、彼女の本音を暴きたいからかもしれない。

「ねぇ、あいこっちおいでよ」

 炬燵に入って、隣の座布団をポンポンと叩きながら彼女を誘う。洗い物に忙しいあいは顔だけをこちらに向けて小さく笑った。

「これだけ片付けたいから、ちょっと待ってね」
「俺が後から洗うよ?」

 こう言っても譲ることはない彼女。俺だって自分のことくらい自分でできるんだけどな。

「すぐ終わるから」

 部屋には水を流す音だけが響き、右隣にぽっかりと空いた空間が寂しかった。早くここに愛しい温もりが来ないかなと願っていると、蛇口を捻る音がして、彼女の作業が一段落したことを告げる。

「お待たせ」

 ちょこんと座ったあいの手をそっと包み込む。タオルでしっかり水気を切ってはいるが、さっきまで水にさらされていた手がひんやりと冷たい。

「ありがとね」

 温もりを分け与えるように息を吹きかける。いつも俺のことを労ってくれるこの手が、俺は大好きだ。

「私がしたくてしてるんだから、気にしなくていいよ」

 彼女はこう言うけれど、感謝の気持ちは忘れちゃいけないし、それを伝えることだって怠っちゃダメだと思う。

「あ、コーヒー入れよっか?」

 じっと見つめる俺の視線に耐えきれなくなったのか、すっと手を引き抜き立ち上がろうとするあい。咄嗟に腕を掴んで捕獲する。せっかく手に入れた温もり、離してたまるもんか。

「いいよ。今はいらない」

 いつになくキツイ物言いになってしまったことは、口にした後に自覚した。俺の様子に驚いたのか、彼女の動きも止まる。

「俺のためにって気持ちは嬉しいけど、二人でいるときくらいゆっくりしてよ」

 掴んでいた腕をはなして、彼女を正面から見つめる。

「たまには甘えたら? おいで?」

 両手を広げて意識的に柔らかく微笑む。あいがこの顔に弱いってことくらいお見通しなんだよ?

「智くん……」

 案の定頬を染めた彼女が戸惑いながらも、ゆっくりと俺の胸へ頭を寄せる。頑張りすぎる君も好きだけど、俺の側では安らいで欲しい。

「今日はいっぱい甘えてよ。年齢も追いついたことだしね」

 悪戯っぽく笑うと、「気づいてたんだ」と俯くあい。六月生まれの彼女は、俺より先に年齢を重ねるのを秘かに気にしている。同じ年に生まれたのに、と俺は思うけれど、その辺りは複雑な乙女心ってやつなのだろう。一つだけ年上になることも、しっかり者の彼女に拍車をかけている。

「あいのことなら分かるよ」

 指通りのいい髪を梳きながら頭のてっぺんに口づけを一つ。あいのことを理解したくて、些細な仕草でも見逃さないようにするくらいには惚れてるよ?

「ありがとう」

 破顔した彼女から重ねられた唇。それは一瞬で離れてしまう。しかし破壊力は抜群で俺の唇に甘い痺れを残した。

「ねぇ、あい知ってる? 煽った責任は取らなくちゃいけないんだよ?」

 しっかりしてるくせに、こういうところは抜けてるんだから。潤んだ瞳でキスされたら、俺の理性なんて簡単に崩壊するのに。

「えっ!?」

 動揺する彼女をラグの上に横たえる。顔の横に両手をついて、逃げられないように囲い込んだ。

「キスはね、こうやってするんだよ」

 言い終わるや否や荒々しく唇を奪う。角度を変えて重ねるうちに少しだけ開いた隙間から、舌を侵入させる。彼女のそれを絡め取り熱を分け合った。


 甘え下手な君のキスはいつも短い。

 だから俺がその分長く口づけを落とす。そうして二人、もっと近くなる。

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