「お疲れ〜」
「お疲れ〜」
「お疲れ〜」
それぞれ手に持った缶を開けて乾杯する。
「何やってんの?」
「いや、お部屋探訪」
「ってか、この三人のファッションおかしくない?」
横に座る三人を指さして言う。
「どういうこと、この格好は?」
「何が?」
真面目に返そうとして笑ってしまったニノ。
「今、何してたんですか?」
「飲んでて」
「三人で飲んでた」
「打ち上がってた」
同時に返した三人。吹き出したニノの首に巻かれていた白い布が目に入った。
「これ何?」
「よだれ垂れちゃうから」
言いながら口元を拭うニノ。その返しがツボに入り、爆笑してしまう。
「私が巻いてあげたんだよ。可愛いでしょ?」
「ねー?」
向かい合って首を傾ける二人が、実年齢より十歳ほど下に見えた。特にあいの可愛さは強烈で、直接それを受けたニノは、よしよしと頭を何度か撫でている。
「おかしくねぇか?」
笑いながらも会話を進めると、ビールを飲みながらニノがここに至る経緯を話し出した。
「飲んでて、そろそろみんなで飲もうかって翔ちゃんの部屋来たら、こんなことになってて……」
「いや、絶対ウソだよ! こんな迷彩着てない」
「これはもう愛だよね。どっちかっていうと」
「そうだよ。受け止めてくれないの?」
「翔ちゃんのことを思って来た訳だから」
ニノとあいが俺を翔ちゃんと呼ぶってことは、結構酔っぱらっている証拠だ。いつもは俺のことを翔さん、翔くんと呼ぶ二人。酔うと甘えん坊になる彼らが、俺は可愛くて仕方ない。
「俺らは悔しいのよ。そうやって、ダサいって巷で言われてるんでしょ? 迷彩迷彩。ダサいダサい」
「そうだよ。翔ちゃんはジュニアの頃、ファッションリーダーだったんだから」
「へそピアスとか、ドレッドヘアとか。かなり尖ってたよね」
「若気の至りってヤツだよ」
苦笑しながら言う。アイドルという仕事に理解が得られず、自分でもどう伝えていいのか分からない。そんな葛藤の時期を懐かしく思い出した。
「で、ちょっとプレゼントしたいの。俺からまずしていい?」
「いいよ。しょうがない。」
そう言って相葉くんが俺の隣に来る。
「飲みにさ、手ぶらで来るのもアレだと思ったから、翔ちゃん好きな迷彩をプレゼントしようと思って」
言いながらパーカーを脱ぎだした相葉くん。ちらりと見える鎖骨が少し赤くて、相葉くんファンの方が画面の向こうで悲鳴をあげるのが想像できた。
「はい」
俺にパーカーを手渡す相葉くん。問題は迷彩を脱いだ後も迷彩だってこと。これはまさしくハワイでの俺を体現している。部屋着から外出着に着替えても迷彩だった。よく見てるなと笑いながら感心した。
「はははは。ありがと。今着た方がいいの?」
「そりゃそうだよ」
「きっと似合うと思うんだなぁ」
「嵐が推した迷彩になるわけだから」
「迷彩をバカにすんなってこと?」
「そうそう」
貰ったパーカーを頭から被ると、相葉くんの香りが漂う。ほんのり残る温かさに、顔が綻んだ。
「俺からもあるのよ。実は、プレゼント」
「何?」
「いる?」
言ったニノが立ち上がり、パンツを脱ぎ始めた。そのシュールな絵に、力の抜けた俺はソファーにもたれ掛かった。
予想通り迷彩を脱いだ後も迷彩のニノ。オレンジ色が入ったそれは、インパクトが強すぎた。
「格闘家みたい」
「何で俺、シュートやってる人みたいになってんの」
その姿を笑いながら、貰ったパンツに着替える。
「いいじゃん」
「やっぱり翔ちゃんには迷彩が似合うなぁ」
ニコニコしながら俺を見つめるあいに問いかける。
「あいからは無いの?」
「あるに決まってるじゃん。いや、気づきにくいかもしれないけど、これでーす!」
機嫌良さそうに言った彼女は、首に巻いていたストールを手に取って、俺に近づいてきた。首にクルッと回し、手早く結ばれた。鼻を擽るあいの香りがとても甘くて、少しだけ心臓が早くなった。
「いや、さすがに気づくわ。ストールめっちゃ目立ってたし。ってか、あいまで迷彩外しても迷彩!?」
そう。ストールの温かさに酔いしれてたからすぐに気づけなかったけれど、ストールを外した首元には、迷彩柄の星がトップについたネックレス。短いチェーンに飾られた首元が、酔ったことで赤くなっている。こんなん全国放送で流しちゃダメでしょ。あいファンの方、きっと今頃画面の前で悶えてるよ?
「これ可愛いでしょ? しばらくヘビロテしようかなと思ってる」
「あい見つけてはしゃいでたもんね。似合ってるよ」
「ありがとう!」と無邪気に言う彼女の頭を相葉くんが撫でる。目を細めた顔が、愛しくってたまらないって物語ってるよ。
「ほら、全身揃ったし、鏡見てみよ」
促されて鏡の前に立つ。
「悪くないでしょ?」
上から下まで見て、返事をした。
「めちゃめちゃカッコいい。ただしストールは別でつけるわ」
「はっはっはっは!」
「だよね?」
「それはそうだ。ぜひ、そうして」
ソファーへ戻る途中、ポケットに手を入れて気づいた。何か硬いものが指に触れる。
「ちょっと待って。アナタ、部屋のカード入ってんじゃん」
「それ、俺の俺の。あっぶね。俺、帰れないとこだった。ありがとう」
慌てた相葉くんが取りに来る。「相葉くん、おっちょこちょいだー」と茶々を入れるあいの腕を引いて、元の場所へ戻った。
「スタジオでいつもバカにされてるから、ちゃんと持ってきたんだよね」
「うん」
「迷彩を着てる翔ちゃんを、私たちは推してますよと」
「迷彩でイジられるから迷彩じゃないのをを持ってくれるんじゃないんだ。迷彩でイジられるから、迷彩のカッコよさを出してくれるんだね」
「そう、カッコよさをね」
「迷彩だってここまでいけるよって」
「ってことで、翔ちゃんの迷彩コレクションに加えてくださいな」
ここで部屋が妙な静けさに包まれた。沈黙を破ったのは相葉くん。
「よし、じゃあ帰ろうか」
この人、ニノやあいといるときはお兄さん風吹かせることが多いんだよな。きっと弟がいて、年下の扱いに慣れてるっていうのもあるんだろうけど。
「じゃあ、ワクワクさん帰ろう」
「ほら、あい帰るよ」
「もう帰るの?」
「翔ちゃんもお仕事だからさ」
缶ビールを左手で持ち、右手であいの手を引いたニノが、小さい子に話すように言い聞かせている。目が少しトロンとしてきたから、きっと眠いんだろうな。
「じゃ、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
「おやすみなさい。翔ちゃんも早く寝てね」
「何かあったら呼んでください。隣に居るんで」
「いやいや、早く休んで」
「えー、まだ寝たくないんだけど」
駄々っ子みたいに言うけれど、もう随分動きが緩やかだ。あいの頭をぽんぽんを撫で、目を見てゆっくり話した。
「疲れてるんだから、もう寝るんだよ。相葉くん、ニノ、頼んだから」
「はいよっ。承った」
心配は残るけれど、二人がついているなら大丈夫だろう。
「ありがとう。バイバイ」
三人を見送ったところでカメラが止まった。機材の片付けをしながら、ディレクターさんからぼそっと聞かれた。
「嵐のみんな、あいさんの頭撫でるの癖なのかな? 三人とも撫でてたよね?」
言われて見れば、そうかもしれない。あまり意識したことないけれど、思い返すと、俺たちだけに限らず、智くんも松潤もよく撫でているような気がする。
「あいの頭、ちょうどいい高さにあるんだよね」
咄嗟に答えたけれど、それだけが理由じゃない。俺があいの頭を撫でるのは、可愛くてたまらない時や、言葉じゃないもので安心させたかったりする時が多い。他のみんなはどうか分からないけど、きっとそう大差はないはずだ。
ひたむきに仕事へ向かう彼女を少しでも支えたくて。頑張ってるね、無理しないように、って願いを込めて。
例えば頭を撫でるときとか、俺は彼女への愛しさに溢れてる。
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