掌 潤くんB.D.



 それはなんてことのないいつも通りの日。金曜日に出演した歌番組の反省会を終え、会議室を出ようとした俺にあいが声をかけてきた。

「潤くん、ここの踊りとフォーメーションチェンジについて確認したいことがあるんだけど。」
「あぁ、そこね。映像見ながら確認する?」
「時間も遅いのに、ごめんね。ちょっとだけいい?」

 両手を顔の前に合わせ申し訳なさそうにするあい。歌と踊りに関してのストイックさは俺以上とも思える彼女が、納得できない状態のまま満足できるわけじゃない。体は確かに疲れているけれど、パフォーマンスのクオリティを上げるためなら時間はできる限り惜しみたくない。

「あい、まだやんの? 疲れてない?」
「夜も遅いんだから、早めに切り上げなよ。」
「そうそう。無理しないように。」
「全くこのドMコンビは。さっさと行ってきな。」

 みんなの心配が嬉しかったのかあいが笑顔で頷く。ニノにぽんとたたかれた頭に手をやりながら、みんなを見送ると俺に向き直った。
 ちなみにドMコンビというのはニノが命名したもので、自分に対して厳しくするのが大好きな二人という意味らしい。なんだか不名誉なコンビ名に思えるけど、妙に納得する気もあるから悔しい。

「じゃ、潤くんも忙しいだろうし、ちゃっちゃと終わらせるように頑張るのでお願いします。」

 ぺこりと下げた彼女の頭をくしゃくしゃにしながら会議室のドアを開ける。

「よし、みんなが帰る前に終わらせてやろうぜ。」
「え、それは厳しいんじゃない? 智くんとか光の速さで帰りそう。笑」
「リーダー、帰る準備は異常に速いからな。笑」

 ひんやりとした風を感じながらレッスン場へ足を向ける。夏とはいえ、もう8月も終わり。朝と夜には秋の気配が感じられるようになってきた。
ふと見た時計の針は23時をさしている。

「よしっ!」
「お、気合い入れた?」
「入れた入れた。」
「では、巻きで行きますか。」
「エイエイオー!」

 こうして俺たち二人の自主練が幕を開けた。

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