共に並び立つ覚悟



 みんなに背中を押して貰って、ニノに想いを伝えた夜。涙が止まらない私を優しく抱きしめて、ずっと背中を撫でてくれたニノ。みんなに対して感謝と申し訳なさが入り交じって、気持ちの整理がつかない。でも、それを見せるのはやめようと思った。
 鋭いみんなのことだから、私の考えていることなんてお見通しだろう。でも、私が俯くよりも、笑っている方が喜んでくれると思うから。

 泣き止んだ私に、ニノが冷やしたタオルを持ってきてくれた。上を向いて目に当てる。冷たさが体中に染み渡り、冷静になれる気がした。

「明日の仕事の前に、元さんに話すよ」

 膝の間に私を座らせ、後ろから抱きかかえたニノが低い声で言う。私たちの変化を、誰よりも早く気づいていたであろう、チーフマネージャーの元さん。時折何か言いたそうな顔で私たちの方を見ていたけれど、忠告することもアドバイスすることもなく、ただ見守ってくれた。その思いには誠意を持って返したい。

「私も行く」

 タオルを外し、ニノの腕を軽く掴んで伝える。諫めるように、抱きしめられる力が少し強くなったけど、私の意志は変わらない。

「行くんだね」

 私がそう言うことなんて分かってたというように、溜息混じりの返事。ニノのことだから、私を守ろうと、何も言わずに一人で行くことも考えただろう。でも、伝えてくれたってことは、私の性格もお見通しってことだ。

「ちゃんと伝えたいから」
「意地っ張り」

 言葉とは裏腹に、声は心配そうで。少し甘えたくなって腕に顔を寄せる。

「一緒にいてくれるんでしょ?」

 ひゅっと息を呑んだ後、ニノはとても優しい声で囁いた。

「当たり前でしょ」



 そして翌日。集合時刻の2時間前に事務所へと向かう。元さんがいるのはさっきの電話で確認済み。二人でデスクへ行くと、困った顔をして会議室へ通された。

「元さん、俺たち付き合うよ」

 イスに座るよりも先に告げたニノ。性急な様子に苦笑いを浮かべ、「まぁ、座れ」と言われた。その言葉に、二人で腰を下ろす。私たちの正面に座った元さんは、真っ直ぐな視線で見つめてきた。

「さっきは二宮から聞いたが、高橋も同じ気持ちだと思っていいんだな」

 元さんは、良くも悪くも私を甘やかさない。それを知っている私は、きちんと自分の想いを口にする。

「ニノが好きです。側にいたいと思ってます」

 ゆっくりと区切るように告げる。覚悟なんてとっくにした。だからどうか否定しないで欲しい。

「はぁ」

 とてつもなく大きな溜息を吐き、元さんが背もたれにもたれ掛かる。両手を頭の後ろで組んで、天を仰いだ。

「俺からは何も言えない」

 しばらくその体勢でいた元さんは、ゆっくり起き上がると、私たちにこう告げた。その言葉に私たちは頷く。

「社長に話したいので、予定を組んでください」

 丁寧にお願いするニノの横で、私も頭を下げた。それに目を細めると、元さんはスマホを取り出し電話をかけ始めた。きっと社長の秘書の方に連絡してくれているのだろう。しばらく話した後、「分かりました」と電話を切った。

「今なら空いているそうだ」

 忙しい社長の予定が空いていることに驚く。でも元さんの様子に、きっと秘書の方が時間をやり繰りしてくれたのだろうと有り難く思った。

「行くぞ」

 ガタッとイスを引く音に、私たちも立ち上がり、後に続いた。


「失礼します。二宮と高橋を連れてきました」

 社長室の扉をノックし、入室の許可を告げる声を聞いた私たちは静かに部屋に入る。元さんはドアの近くに控え、ここからはお前たちが話せと言わんばかりに顎をしゃくった。ソファーに座っていた社長がゆっくりと立ち上がる。

「お忙しい中、時間をとっていただき、ありがとうございます」

 隣で頭を下げるニノに習う。

「ジャニーさん、今日は報告があってきました」

 そこで言葉を区切ると、浅く深呼吸した。

「俺たち、付き合います。認めてください」

 誰かと付き合うのに本来なら許可はいらない。でも、私たちの場合は違う。どれだけ想い合っていても、この人の許しがないと、側にいられないだけでなく、グループとしての存続までもが危うくなる。

「高橋も?」

 普段は名前なんて呼ばないジャニーさん。その人が個人を指して問いかける。それは覚悟を見せろということだろう。

「はい。ニノと同じ想いです。お願いします」

 頭を下げた私に、社長の声が降ってくる。

「ジャニーズに女を入れるから、こんなことになる」

 それは想像しうる世間からの声。私たちの事が公になれば、必ず言われるであろう言葉だ。

「男に囲まれて、チヤホヤされていい気になって」

 容赦無い言葉に胸が痛くなる。隣のニノが口を開こうとしたのを、手をギュッと握って静止する。これは私が聞かなくてはいけない言葉だから。

「世間から叩かれるのは君だよ」

 手厳しい指摘にも目を逸らすことはしない。これまでにその可能性を考えなかったとでも? 何度だって手放そうと思って、でも手放すことを許されずみんなに背中を押してもらった。なのに私が諦めるわけにはいかない。

「分かってます。それでも、ニノと一緒にいたいです」

 言い終わると、右手が一度離された。そして一本一本指が絡められるように繋ぎ直される。そこから送られる温もりが、一人じゃないと感じさせてくれた。

「君たちは嵐だ。グループとしての活動が第一である以上、二人が共にいることで迷惑をかけることは許されない。他の四人だって、私は大切なんだからね」

 その言葉に四人の顔を思い浮かべる。私の大好きなメンバー。いつだって一緒に過ごしてきた。辛いときは支え合った。そんなメンバーが大事でたまらない。

「ジャニーさん、俺たちが嵐を凄く大切に思ってるの知ってるよね」

 挑むような視線で見つめたニノ。

「どんなことがあっても六人でいるに決まってるじゃない。運命共同体なんだから」

 フッと笑って宣言する。それに同意するように私も小さく微笑んだ。

「それにさ、俺があいを諦めると思ってんの? やっと捕まえたのに、離すわけない」

 手を強く握られて、熱の籠もった視線を向けられる。何度も感じたものだけれど、人前で向けられるのは慣れてなくて頬が熱くなった。

「二宮、高橋」

 名前を呼ばれて社長に向き直る。しばらく視線を合わせて言葉を待った。どれくらい時間が経ったか分からない。でも右手に感じる温もりがあったから、不安が顔を出す事はなかった。

「おめでとう」

 初めて送られた祝福の言葉と共に、ジャニーさんの手が頭に乗せられた。小さい子を撫でるみたいによしよしとされて、私の涙腺が崩壊する。

「ジャニーさん、泣かせるなよー」

 そう言うニノの目だって、ちょっと赤いの見逃さないよ。

「私だって、あいが可愛いからね。女性としての幸せを奪ってしまったと、ずっと思っていた」

 名字じゃなくて名前で呼んでくれることで、社長の立場でなく、ジャニーさん個人としての思いを伝えてくれている。申し訳なさそうに言うジャニーさんに、首を振って否定した。

「私は、この仕事が好きです。メンバーと、たくさんのスタッフさんと、大好きなファンの人と過ごせるアイドルという仕事が大好きです」

 流れる涙を気にせず、顔を上げて伝えた。ジャニーさんは、頭をぽんぽんと二回軽く叩くと、手を離す。

「外で聞き耳立ててるみんなにも伝えなさい。僕は見守る立場を取ると」

 その言葉にドアが勢いよく開き、四人が飛び込んでくる。同時に四方から抱きしめられた。頭を撫でられ、背中をぽんぽんと叩かれ、笑顔が向けられる。

「元さんにメール貰ってびっくりしたよ」

 心配そうな眼差しの相葉くん。

「ニノ、あい、頑張ったね」

 労るような瞳の翔くん。

「良かったな」

 唇の端だけを上げて笑う、私の大好きな笑い方の潤くん。

「ジャニーさん、あいをいじめるなよ」

 後ろから私を抱きかかえ、不服そうな声を上げる智くん。

「大野がそう言うってことは、信じてもいいんだね?」

 嵐のリーダーである智くんに尋ねるジャニーさん。

「当たり前じゃん。あいの幸せが俺たちの願いだよ」

 淀みなく返した言葉に、みんなが頷く。今の私は世界で一番幸せだと思った。

「嵐はこれからも六人だね」

 みんな揃って、ジャニーさんに頭を下げる。振り返ると、扉の側には笑顔の元さん。ニノと二人一緒にきつく抱きしめられた。

「心配させやがって……。おめでとう」

 さっきはくれなかったお祝いの言葉。少し震える語尾に、元さんの気持ちが見えた。感謝を込めて、背中に腕を回す。

「これからもよろしくお願いします」

 そう言うと、「当たり前だ」と返ってきた。

 扉を閉めようとすると、社長の声が飛んできた。

「まだ露見するような真似は慎みなさい」

 それは会社を統べる人が発する言葉。

「発表のタイミングは考える。見せてもらうよ、君たちの覚悟」

 責任を突きつけられた。ニノと並んで一礼を返す。繋いだ手は強く握られた。


 貴方と、貴方たちと共に並び立つ覚悟は、もう固めた。

 向けられる非難や中傷だって必ずある。

 それでも、手にした想いを手放すことはできないから。


 側にいる。六人でいる。

 その誓いを胸に、ただ前を向いて進んで行く。

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