こころが君を探してる
title by 確かに恋だった



 あいと付き合うことを認められてから、数ヶ月が経った。これまでとほとんど変わらない俺たち。変わったのは、時折流れてしまう甘い空気と、二人だけの時に、彼女が俺を見つめる瞳の色。
 社長との約束だから、デートするなんて以ての外。外で少しでも疑いがかかるような会話もできない。それは重々理解しているし、俺たちに課せられた責任だと思っている。でも、俺はもう少しだけこの関係を変えたい。

 一週間後、俺は渡米する。ハリウッド映画への出演のためだ。これまでにない作品の規模、慣れない土地での仕事は、多大な緊張感と少しの高揚感を俺に与える。
 不安と妙な興奮状態の間で揺れ動く俺を、穏やかな気分にしてくれるのは、やはりあいの存在だ。特に何を言うわけでもない。でも、そっと触れる手や柔らかい微笑みが、俺をいつも俺に返してくれる。

 そんな支えが一切無い状態での挑戦。情けないところなんて見せたくないけど、正直自信が無い。だから、俺にお守りをちょうだい。

「ねぇ、あい」

 床にちょこんと座って、嵐の雑誌を熱心に見る彼女へ呼びかける。

「うん、何?」

 首を傾げて此方を振り向く。その姿に鼓動が跳ねた。

「お願いがあるんだ」
「ニノがお願いなんて、珍しいね」

「二人の時だけでいいから、名前で呼んで」

 俺の突然の要求に、動揺するあい。視線が俺の真意を探ろうとするかのように、忙しく動く。

「来週からアメリカに行く。その支えにしたいんだ」

 それだけじゃない。俺たちの関係を少しだけ変えたい。俺が君の特別だって、見える形で思い知りたい。

「向こうに行ったら、電話はしない。声を聞けばきっと寂しくなるから」

 嵐になってからは週一回以上。ジュニアの頃だって二週間に一回は会っていた筈。それが一ヶ月以上も会えない。想いが通じ合った今、それは胸が痛いほど切ない。

「メールはするから、返事の時に、俺の名前を入れて欲しい」

 声は聞けなくても、文面は残るから。そこに刻まれた言葉を支えに頑張るなんて、乙女チックな思考だなと苦笑いが漏れた。

「ニノ……」

 心配そうに眉を顰めるあいをそっと引き寄せる。

「呼んで……」

 両手を頬に添え、瞳を合わせて懇願した。

「和」

 耳に届いた言葉と、彼女の潤んだ瞳を胸の中へ大切にしまって、俺はアメリカへと飛び立った。


 そして一ヶ月。
 約束通り、あいは毎日メールをくれた。ほとんどが日常生活に起こった些細な出来事。夕食に食べたカレーが美味しかったとか、肌寒さが和らいできてマフラーを仕舞ったとか。そんな中にも、必ず俺の名前を呼びかける一言が記されていて、それだけで笑みが漏れた。

 それでも、知らず知らずのうちに君に話しかける。あい、先輩方の演技の凄さ、君にも感じて欲しい。あい、こっちのご飯は俺には合わないかも。

 あい、会いたいよ。

 一度だけ君の電話番号を指が勝手に押しかけた。発信ボタンを押す前に電源を切った。でないと、約束を破ってかけてしまいそうだったから。こころが君を探してるんだ。


 無事撮影が終わり、俺は日本へ帰った。部屋で待っていてくれるであろう彼女のことを思うと、時差ボケなんて気にならない。
 鍵を開けると、君の声が聞こえた。

「お帰り。和」

 飛び込んできた温もりを抱きしめて、喜びが全身を駆け巡る。

「ただいま。あい」

 そう告げると、もう言葉はいらない。唇で熱を分け合い、互いの存在を確かめた。


 こころが君を探してるから。どうか名前を呼んで。

 どんなに離れていても、君を感じられるように。

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