終わらない恋になれ
title by 確かに恋だった



 マネージャーのノンちゃんに送ってもらって、和の家に二人で入る。マスコミも、まだ家にまでは来ていなくてホッとした。
 二人分の携帯をテーブルに置き、連絡があればすぐに出られるようにする。交代でその側にいながら、夕食を食べたりお風呂に入ったりというルーチンワークをこなした。

 ソファーに座り、一息吐く。興奮状態にあった頭が少し落ち着いたのか、体に疲れを感じた。そこで初めて気を張っていたことに気付く。座り込んだ体勢から立ち上がるには、ちょっと気合いを入れないといけないかも。

「飲む?」

 和が湯気の立つマグカップを持ってきてくれた。そこには甘い香りのするココア。私は疲れている時にココアを飲んで、糖分を補給する。和がココアを入れてくれたということは、私の疲れなんてお見通しだったというわけだ。

「ありがとう。」

 受け取って両手でカップを包むようにして持った。一口含むと、優しい甘さが広がり、体中にゆっくり届けられる。掌から伝わる温もりで、緊張が少し解れた気がした。

「お疲れ様、って言いたいところだけど、これからだね。」

 和は気休めを言わない。でもそれがいい。一緒に歩きたいと思ったのは私だ。ただ守られるなんて嫌だから。

「うん。」

 だから私も頷く。これからのことを思うと不安が顔を覗かせる。それに負けないよう背筋を伸ばした。

「充電しとこ。」

 ソファーに置いた右手の上に、和の左手が重ねられる。握られるでもなく、ただそっと。目を遣ると、和は柔らかい微笑みを浮かべていた。
 そしてゆっくりと唇が重ねられる。音もなく、静かに繰り返される口付けで頭の中がクリアになる。私はこの温もりを求めていたんだ。

「もっとしたいけど、我慢しよ。」

 悪戯っ子のように笑う和の額を軽くペシっと叩き、抱きつく。

「ありがとう。」
 カチカチに固まってしまいそうだった気持ちを解してくれて。

「俺が甘えたかっただけだけど?」
 それが和の優しさだって分かってるから、背中に回した腕に力を込めた。

 もう一度唇に温かさが降ってきそうな予感がして目を閉じた。その時。
 静かな部屋に電話の音が鳴り響く。

「いいところでかかってくるなぁ。これ、絶対どっかで見てるんだよ。」

 少し照れくさくて、顔を見合わせて笑う。そして電話に出た。

「もしもし。」
「あいか。二宮もそこにいるな。」

「もちろんです。スピーカーにした方がいい?」
「そうだな。その方が話も早い。」

 元さんの声に、私は携帯を操作する。

「できたよ。」
「よし。では簡潔に。今後の対応だが、月曜に関係各社へ一斉にFAXを送信する。同じ文面を会社のHPにも掲載する。」

「じゃあ、俺らはその文面を考えたらいいんだね。」
「そうだ。できれば今日中に送って欲しい。内容を検討して送り返す。」

「分かった。後は?」
「幸い土日は休みだ。できるだけ外に出るな。なんとかなるか?」

 和と顔を見合わせる。普段から休みの日は家で過ごす和。私もこんな状況でわざわざ外出したいとも思わない。

「大丈夫だと思う。」
「なら、そうしてくれ。そしてコメント発表以降、交際の質問に関してはお前たちに任せるそうだ。」

「社長がそう言ったの?」
「あぁ。アイツらなら嵐にとって悪いようにはしないだろうとな。」

 2年前、交際を認めてもらいに行ったときのことを思い出す。あの時のジャニーさんは、私のことを思って、敢えて厳しい言葉を投げかけてくれた。だからこそはっきりと覚悟も決まったし、より強く嵐を大事にしようと思った。

「肝に銘ずる。」
「お前らなら分かっていると思うが、事務所にもいろんな声が届いている。肯定的なものも否定的なものも。お前らはアイドルだ。そこを絶対に忘れるな。」

 和と目を合わせて頷き合う。必要以上のことは話さなくてい。私たちは応援して下さる方へ、想いを届けるのが仕事なんだから。

「色々ありがとう。」
「よろしくお願いします。」
「あぁ。また連絡するから、今回みたいにすぐ出ろよな。」

 そう言ってバタバタと電話は切られた。

「じゃあ、文面考えようか。」
「みんなに連絡しとかなくていいかなぁ。」

「俺がメール送っとくよ。」

 和が携帯をピコピコと操作し始めたから、私は紙と鉛筆を用意し、文章を考え始めた。

「あ、返事来た。」

 お互い熱中していたためか30分ほど時間が過ぎていた。和の声に目を向けると、智くんからの返事を表示した画面を見せられた。

「リーダーが、4人からも連名でコメント出すって。」

 和の言葉通り、そこには4人で相談した結果、私たちのコメントと一緒に、連名でコメント出すからよろしくと書かれていた。

「みんな忙しいのに……。」
「今回は甘えよ。これからちゃんと返していこう。」

 支えて貰った分、いや、それ以上にみんなを支えたい。その気持ちを新たにする。

「こんなにして貰って、俺たちもう離れられないね。」

 和がとてつもなく嬉しそうに言うから、私も戯けて返事をする。

「あれ? 離れる気なんてあったの?」

 予想外だったのか、少し目を丸くした彼が面白くてくすくす笑った。

「そんなのあるわけないね。」

 笑顔で言い放った和がじゃれついてくる。それを受け止めて目を閉じた。


 確かな未来なんて無いけれど、願わずにはいられない。

 どうか、どうか、この恋よ。終わらない恋になれ。

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