台風の目は穏やかに微笑む
□ side N
昨日はコメントを元さんに送った後、二人寄り添って眠った。あいはなかなか寝付けなかったようで、何度か体をごそごそと動かしていた。ゆっくりと頭を撫でていると、しばらくして規則正しい寝息が聞こえた。それを子守唄にして、俺も束の間眠りについた。
とは言え、頭のどこかが興奮状態にあるため、熟睡することはできないようで、夜中に何度か目が覚めた。その度に隣の温もりを確かめる。彼女の眉が時々顰められるのは、きっと俺と同じ理由だろう。その度に指先でそっと解し、唇を落とす。穏やかな顔になったのを確認して目を閉じた。
そして朝と言うにはまだ早い土曜午前5時。とうとう目が冴えてしまった俺は、あいを起こさないように静かに体の向きを変えた。枕元の携帯電話を手に取る。テレビを見た家族や友人、知人からたくさんのメールがきていて、順に読んでいた。
ふと後ろから腕が回された。温かさに頭だけで振り返ると、俺の背中に頬を寄せるあい。まだ起きてはいないようで、目は閉じたまま。何かを求めるように、俺に縋り付いている。その姿を見ていたらたまらなくなって、体の向きを変えて腕の中に囲い込んだ。時折額に口付け、寝顔を見つめる。これからもあいの側で過ごしたい。想いがさらに強くなった。
「和?」
寝起き独特の少し掠れた声。まだ寝ぼけ眼の上目遣い。俺の理性を試してるのかと言いたいくらいの艶めかしさに、思わず苦笑する。そんな状況じゃないって分かってるのに、体中余すことなく触れて、啼かせたいなんて思う。そんな不埒な欲をなんとか押し込めるため、あいの頭を俺の胸に引き寄せた。
「目、覚めた?」
「うん。和はちゃんと寝た?」
「大丈夫。あいの寝顔見たから、休まった。」
「何言ってんのよ。バカ!」
口を尖らせるあいが愛おしくて唇を重ねる。逃れようとする舌を捕まえ、口内へ招き入れる。柔らかさを存分に楽しんで、最後に軽くリップ音を残して離れた。
「起きよっか。」
頭を優しく撫でて体を起こす。「……バカ」と耳に飛び込んできた呟きは、聞こえないふりをしておいた。
「あ、FAXきてるよ。」
顔を洗い終わってリビングへ戻ると、あいが薄い紙をピラピラさせながら寄ってきた。渡されたものを見ると、昨日俺たちが考えた文面と、メンバーが書いてくれた文面が一枚にまとめられていた。
「あい、もう確認した?」
問いかけると、肯定の返事。俺はゆっくりと文字を目で追い、間違いや内容を確かめる。そして元さんに連絡し、文面を確認したことを伝えた。
「ねぇ、これに一言書いて、みんなの家に送ろうよ。」
「このFAXに?」
「うん。みんなにはすっごくお世話になってるから、一番に知らせないと。」
片目を瞑って言ったあいは悪戯そうな笑みを浮かべていた。こんなFAXがきたら、みんな驚くだろうなぁと考えて俺の口角も上がる。
「よし、じゃあコピーしてくるから、一言考えておいて。」
言い残して部屋へ戻る。コピーをとりながら、これを目にしたみんなの顔を思い浮かべて、小さく微笑んだ。
□ side A
朝っぱらから鳴る電話の音に起こされる。今日は土曜日。珍しく休みの日だ。ゆっくり寝たいのに、貴重な睡眠時間を邪魔するの誰だと少し不機嫌になった。
出たくないなと思いながらもノロノロと体を動かすと、音が切り替わる。これはFAXだ。ならば、わざわざ起きることもなかった。でも、ここまで来たんだからと電話機が排出する紙を手にとった。
それは昨日の生放送で交際宣言した、ニノとあいのものだった。月曜日に関係各社に一斉にFAXすると聞き、二人のコメントの下に、俺たち嵐からのコメントも発表することにした。
「こんな感じになったんだ。」
出来上がりを知らせるために、わざわざ送ってくれたのかなと読み進める。と、最後の文で目が止まった。
『相葉さんが背中を押してくれたから、今があるよ。ありがとう。二宮和也』
『いつだって心配してくれてありがとう。見守ってくれるから前を向けたよ。高橋あい』
これは間違いなく俺だけに向けたメッセージ。きっと昨日、誰よりも不安な夜を過ごしたであろう二人。でも文面にはそんな感情少しもなくて、伝わるのはお互いへの、そして自惚れでなければ、俺たちへの信頼感。
あの時伝えずにしまい込んだ思いが少しだけ顔を覗かせる。俺が決めたことはきっと間違ってなかった。ニノとなら、絶対幸せになれるよ。
「……おめでと」
唇に乗せて、小さく微笑んだ。
□ side S
目覚ましとも携帯のアラームとも違う種類の音に、少しずつ頭が覚醒する。あー、あれは電話だったっけ? いや、FAXだ。じゃあそんなに急いで起きる必要もないか。そう判断した俺は、寝起きの微睡みを堪能する。
今日の仕事は昼から。月曜のニュース番組の打ち合わせだ。そろそろ起きて準備をしなければと、布団への執着を断ち切った。
電話の横を通ると、一枚の紙がぶら下がっている。そう言えばさっき鳴ってたなとビリビリと破りとった。宛先はニノからで、目を通すと、月曜日に一斉送信するものだと分かった。
「わざわざ送ってくるってことは、何かあるのかな?」
内容を知らせるためだけに、ニノはこんなことをしない。それだけなら元さんから連絡があるはず。だから俺は間違い探しでもするように、丁寧に紙を眺める。そして見つけた。俺に向けてのメッセージ。
『翔くん、言わないでいてくれたこと知ってた。甘えてしまって、ありがとう。二宮和也』
『ずっと側にいてくれてありがとう。優しい眼差しが支えになってるよ。高橋あい』
ごめんね、じゃなくてありがとうを選んだニノ。気持ちが伝わって、少し鼻の奥がツンとした。
あの時伝えられなかった思いが少しだけ顔を覗かせる。形は変わっても、君への想いは確かにここにあった。これからも側にいるよ。俺たちは6人で嵐だから。
「……こっちこそ、ありがとう」
唇に乗せて、小さく微笑んだ。
□ side M
目覚まし時計の音に眉を顰める。俺は朝にめっぽう弱い。ノロノロと体を起こし、シャワーを浴びると少し頭がクリアになった。
今日はコンサートの打ち合わせがある。約束は11時。あと少しで出発しないと間に合わない。軽く朝食をとり、連絡が入っていないかいつものように電話を確認する。
いつもとは違う風景に首を傾げる。目に入ったのは一枚の白い紙。そうか、FAXがきてるんだ。それはニノから。二人の交際についてのコメント文だった。
「俺にも確認しろってことか?」
元さんが確認している筈だから、今さら俺が見る必要もないと考える。それでも見てしまうのは、大切な二人のものだから。そこで見つけたんだ。二人の想い。
『潤くん、幸せにするから。自分の想いよりも大切にしてくれて、ありがとう。二宮和也』
『潤くんが見ててくれるから笑えるよ。ありがとうだけじゃ足りないけど、やっぱりありがとう! 高橋あい』
あの頃の想いが蘇って胸が痛くなる。ホントに、本当に好きだった。一瞬、君さえいれば何もいらないと思ってしまうほどに。想いの形は変わったけど、大切な人。ニノになら任せられると、胸を張って言えるから。
寄り添うように並んだ二つの文に、知らず知らず笑みが零れる。目を閉じて愛しい存在を思い描く。大丈夫。今なら心から言える。
「ニノ、あい、おめでとう」
唇に乗せて、小さく微笑んだ。
□ side O
昨日から変に目が冴えている。細切れの睡眠を諦め、絵を描くことにした。目に映るものをひたすら紙に写し取る。その作業は胸の中にあった焦りや不安を、少し解してくれた。
今日は休日。ほとんど寝ないまま朝を迎えた頭は少しふらつき、休息を求めているのが分かった。何か口に入れて寝ようとリビングへ足を運ぶ。ドアを開けた瞬間、電話が鳴り、FAXが届いたことを知らせた。
薄い紙を破って読む。そこには、ニノとあいと俺の筆跡。そして3人の名前。あぁ、月曜に送信する文面ができたんだなと回らない頭で思った。
「元さんが送ってくれたのかな。」
呟いて送信元を見ると、そこにはニノの名前。疑問が渦巻くも、解決の糸口は見えなくて文字を目で追った。
『リーダー、あなたの深い愛には勝てません。包みこんで守ってくれて、ありがとう。二宮和也』
『智くんにはずっとずっと支えて貰ってます。大丈夫って言ってくれて、ホントにありがとう。高橋あい』
俺の気持ちバレてんじゃん。ニノのことだから知ってると思ってたけど。心の中で悪態を吐きながらも、昨日から感じていた焦りが小さくなっていくのを感じた。付き合っていることが公になって、二人が悪意のある視線に晒されると思ったら、いてもたってもいられなくなった。
でも、俺への文章を書きながら隣同士にいるであろう二人のことを考えると、心配ないって思えた。もしも心配なら、俺が何度だって言うから。あい、大丈夫だよ。
口に出した名前を愛しく感じるのは変わってなくて。でも、君への想いは変化した。ニノの隣で笑っているあいがとても愛おしいんだ。
「もっと、もっと幸せになって……」
唇に乗せて、小さく微笑んだ。
そして大切なメンバーを脳裏に描く。このFAXを貰って、俺と同じように微笑んでいるであろう相葉くん、翔ちゃん、松潤。そして二人側で寄り添って笑っている筈のニノとあい。
きっとこれから俺たちの周りは、台風のように激しいものになる。憶測が渦巻いたり、謂われのない中傷に囲まれることだってあるだろう。それでも、この台風の中心で俺たちは穏やかに微笑む。だって俺たちは嵐だから。台風なんて目じゃない。
こんなの駄洒落じゃないかと一人ツッコミながら、俺はベッドに入る。昨日と違った心地良い睡眠が訪れる気配に、目を閉じた。
激しい嵐の中でも、両手に受け止め進んで行く。
穏やかに微笑む、君と共に。
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