キスのお返しはグーパンチ



 今俺たちは、汐留にあるテレビ局でインタビューを受けている。朝の情報番組で、デビュー記念日に特集を組んでくれるらしい。特集の締めは視聴者から俺たちへの質問コーナーだ。

「メンバー同士で遊びに行くことはあるんですか? という質問ですが。」

「メンバーと……。」
「ご飯食べに行くことはありますよ。」

「仕事終わりとかね。」
「最近はなかなか全員揃うことは無いんだけど。」

「ちなみにどんなお店に行かれます?」

「えっと、ラーメン屋さん。笑」
「我々、リーダーに奢らなくちゃいけないんですよ。」

「そうそう。お仕事取ってきて貰ったんで。」

 翔くんの言葉にみんな笑い出す。「次、誰の番だっけ?」と横に話が逸れそうになるのを修正する。

「相葉さんと俺は草野球することありますよ。年に数えるくらいだけど。」
「そうだよ。今年はまだ1回しかやってないもんね。日程組まなきゃ。」

 腕をぶんぶんと振り回してやる気をアピールする相葉さん。その腕に当たりそうになって慌てて避ける。ごめんごめんと両手を合わせて、いつもの調子で謝ってきたけど、じろりと一睨みしておいた。全くいつまでたっても治らないんだから。

「それでは、最後の質問になります。」

 その言葉に、もう最後? とか、もっと聞いてくださいよ。とか口々に返すメンバー。こうやってファンの方からの質問に答える機会はあまり無いから、俺たちとしても楽しんでいた。それが終わってしまうのはやっぱり少し残念だ。と言っても、時間に限りあることは重々理解している。俺たちはスッと黙って次の質問を待った。

「ドラマや映画のキスシーンは本当にするんですか?」

「最後になかなかの放り込んできましたね。」
「松本さん、どうなんですかね?」

「何で俺に振るんだよ。」
「キスシーンと言えば松潤でしょ。」

 相葉さんの言葉に大きく頷く俺たち。それを見て小さく溜息をついた潤くんが話し出す。

「唇以外、例えば頬にするときとかは本当にすることがほとんどです。唇の時は……ってなんか恥ずかしくなってきた。」

 珍しく照れている潤くんを見て、微笑んでしまう。その時、ちょうど翔ちゃんと目が合った。

「あー、潤くんが照れちゃった。続きは翔さんからお願いします。」

 ニヤリとバトンを渡すと、しまったという顔。でも、もう遅いよ。

「えー、唇の時は色々です。話の流れでした方が良いときはするし、夕焼けとかをバックにしたふりでそれっぽく見せるときもあります。」
「翔ちゃん、先生みたいになってるよ! 笑」

「くそっ! これハズいな! 続きはニノに任せた。」

 少し赤くなった顔を隠して、翔ちゃんが無茶ぶりをする。仕方ない。さっき渡したバトンが返ってきたと思おう。

「えー、特にしたふりをする時は、直前までが大事です。アップになる時に、あー、この二人はキスするんだなって思わせる見せ方があります。」

 そう言いながら、隣にいるあいの頬に手を添え、視線を絡ませる。初めは驚いていたあいも、俺の意図を理解したようで、身を委ねてくれる。

「そして徐々に距離を近づけて、相手が目を閉じたら……。」

 俺の言葉にゆっくりと目を閉じたあい。モニターを確認しなくても分かる。きっと画面は俺とあいをアップで映しているだろう。頭の隅では分かっているのに、その顔を見たら胸から狂おしさが駆け上がってきた。

「くるっと抱きかかえて覆い被さる。」

 冷静な俺が解説しながらあいをカメラから隠す。そしてキスしたふりをした。

「おぉー、ニノ上級者!!」
「これなら確かにチューしてるみたいに見えるね。」

「お前らこれ、テレビだぜ。見てる人ホントかと思ってビックリしちゃったんじゃない?」
「ちょっと二宮家を覗き見したみたいで恥ずかしい!」

 それぞれの突っ込みを聞いているうちに、平静を取り戻した俺も応酬する。

「本番は見せないよ。」
「うわー、のろけられた!!」

「ふふ。というわけで、こんな風にキスシーンの撮影は行われていると。」
「あくまでも俺たちの場合ということですけど。」

「ありがとうございました。実演付きで、分かりやすく答えていただきました。」

 隣でビクリと小さく動いた肩。俺しか気付かなかったのは、さすが彼女のプロ根性といったところだろう。


 撮影も無事終了し、挨拶を終えた俺たちは連れだって楽屋へと戻る。リーダーとどうでもいい話をしながら歩いていると、左側から脇腹に向かって飛んでくる拳。咄嗟にそれを受け止め、引き寄せる。
 と、顔を赤くし、悔しそうに唇を噛んだあい。あー、これは結構怒ってるなと見ただけで分かった。

「和のバーカ!」

 俺の手を振り切り、思いっきりあっかんべーをしてズカズカと先へ行く。いつになく子どもっぽい拗ね方に、一瞬呆然とするも可愛くて仕方ない。後ろ姿を見送りながら、笑いをかみ殺す俺にリーダーが呆れたような顔を向ける。

「あー、怒らせちゃった。カメラの前でキスするからだよ。」

 リーダーに、やっぱりバレてた? と視線で返す。

「俺の角度からは見えちゃった。」

 悪戯っぽく笑うリーダーは、「他からは見えてないと思うけど。」と優しく付け足して、俺の額にデコピンを落とす。
 そう、さっきはキスしたふりをしたと言ったけど、実際してしまった。いや、明確な意志を持ってキスした。が正しい。

 あいの頬に手を添えたときは、ホントにするつもりなんてなかった。それはもう誓って。でも、彼女が目を閉じて俺に身を預けた時、ここがどこかとか、誰かが見てるとかいうのが一切飛んでしまった。そして吸い寄せられるように彼女に口付ける。その甘さに頭が痺れそうになるのを理性で押さえたけど、してしまった事実は曲げられない。

「仲直りしてこなくちゃダメなんじゃない?」

 随分先を歩くあいの背中を目線で示しながら、リーダーが促す。

「じゃあ、楽屋には5分後に帰ってきてね。」

 ニヤリと笑って言い捨てると、俺はあいの後を追いかけた。


 そして楽屋へ引き入れ、柔らかく抱きしめる。耳に唇を寄せ、「ごめんね。」と謝罪する。少しずつ怒りが冷めてきたあいの腕が背中に回された。一安心と思った瞬間、首の後ろに彼女の両手が回り、グイッと引き寄せられる。そして唇に触れた温もり。完全に不意打ちのそれは、さっきの口づけよりも甘くて、俺の判断力を失わせる。
 彼女から主導権を奪い、隠れた舌を探し当てる。何度も絡ませたお互いの熱を分け合った。正気に戻ったのは、ドンドンとドアをノックする音が聞こえたから。

「もう、入るよ。」

 リーダーの声に、パッと離れる俺たち。赤く上気した頬を隠すように俯いたあいと、ドアを開けに行った俺。それは誰が見ても今まで何かしてましたってバレバレで。

「いちゃつくのは、帰ってからにしてよー。」
「ニノ、反省してる?」

 メンバーにからかわれても、何の反論もせずに黙っておく。さすがに今回はやり過ぎたと自分でも思ったから。

「ま、仲直りできたみたいで良かったね。」

 俺たちの様子を見て、翔ちゃんがそう告げる。それは、この話はこれで終わりにしようという暗黙の合図。助けてくれた御礼を目で言うと、ふふと笑顔で返された。今度差し入れでもしよう。
 ゆっくり俺の方に歩いてきたあいが、右手で緩いパンチを繰り出したのを、俺は甘んじて受け入れた。

 キスのお返しはグーパンチ。
 でもそれはとてもとても甘い、君の照れ隠しだった。


(ニノの顔、デレデレし過ぎ!)
(あんまりいちゃつくと、さっきのことバラすよ?)
(リーダー、それはやめて……)
(ニノがそんなに言うなんて珍しい。)
(ね。聞きたくなっちゃう)
(うーん)
(智くん!)
(あいが可愛そうだから言わない)
(ありがとうっ!)

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