やさしいてのひら
title by 確かに恋だった
乾燥の激しくなってきたこの季節。特にてのひらのカサカサがひどい。朝起きてすぐはスマホの画面も反応しないくらいの乾燥具合だ。
これでもあいと結婚して、少しはマシになったと思う。加湿器が入れられ、健康に気を遣った食事も作ってくれている。それでも、手の乾燥はなかなか良くならない。
だから、今日も俺はあいの手に触れる。ハンドクリームを塗っている時を狙って。
「あい、手がカサカサしてきたー。」
「また? 仕方ないなぁ。」
そう言う彼女の手からクリームを受け取る。重要なのは、容器からではなく、あいの手から貰うということだ。彼女のてのひらで温まったクリームは、すっと俺の手に馴染み、潤いを与えてくれる。
「自分のクリーム使いなよ。」
毎回のことに呆れ顔を浮かべるあい。
「ヤダ。あいのがいい。」
「同じメーカーの使ってるくせに。」と口を尖らす姿さえ可愛い。俺だって、別に自分のものを使うのが嫌なわけではない。仕事が一人の時は自分のを使うし、あいがいないからと言って、他のメンバーのものを貰うこともしない。あいが特別だからって分からないかな?
そんな想いを込めてじっと見ていると、堪えきれなくなったのか、先に視線を逸らしたあい。
「私のクリーム、すぐ無くなっちゃうんだからね。」
照れ隠しに、恨み言を一つ呟いて俺の側を離れていった。
「ニノ、わざとでしょ?」
悪戯を見破ったかのように、嬉しそうな顔をした翔ちゃんが近寄ってくる。
「何のこと?」
わざとしらばっくれた俺に、ニヤリと唇の端だけ上げて言い放つ。
「ハンドクリーム。貰うのはあいの手からだけだもんね。」
どうだ! と言わんばかりに胸を張った翔ちゃんに、思わず吹き出す。
「バレた?」
「バレてる、バレてる。いちゃいちゃしてんなーって思ってる。」
意味のなさ過ぎるやり取りのおもしろさに、お互い笑いながらしか話せない。
「あいに言ってあげたらいいのに。君は特別だよって。」
ふと真顔になった翔ちゃんの顔が優しくて、途端に恥ずかしさがこみ上げる。
「言葉じゃなくて、行動で伝えてるつもりなんだけど。」
捻くれてしか返せないけど、それも俺だって分かってくれる翔ちゃんは。
「違いないね。」
と大笑いして去っていった。そんな翔ちゃんを見送った後、鏡の前に座るあいの元へ足を運ぶ。メイクを待っているのか、化粧下地だけの顔。鏡に映る俺を見て、ゆるりと微笑んだ。
「また手がカサカサになった?」
「手はさっきあいに塗って貰ったから、つるつる。」
おどけて言うと、そっと頬に触れる。そこに自分の手を重ね、
「ホントだね。」と笑う君を見ていたら、我慢できなくなって。
「今度は唇がカサカサになっちゃった。」
と囁き、唇を掠めとる。驚きから羞恥に変わる顔を楽しむと、今度はさっきより長い口づけを落とす。
「これで唇も潤った。」
ニコッと笑うと、恥ずかしさから唇を震わせるあい。反撃を防ぐためにその両手を掴む。
「またよろしくね。」
首を傾げて伝えると、困ったようにハの字になる眉。あいがこの顔に弱い事なんて知ってるんだから。
手の中の、俺より少し小さいそれをゆっくりと撫でる。心がささくれ立っているときも、言いようのない不安も。いつだって俺の心を潤してくれるやさしいてのひら。
俺はもう、この手を離せない。離さない。
(お前らいちゃつきすぎだぞ!)
(いいぞ、リーダー! もっと言ってやれ!)
(ちょっと夫婦だからって、隙見ればいちゃいちゃいちゃいちゃと)
(3人ともこの後、ソロの仕事が入ってるからって苛ついてんのね。笑)
(まぁまぁ、そうイライラしないのよ)
(((お前が言うな!)))
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