きみ不足が深刻です
title by 確かに恋だった



「……」
「……」

 部屋の中を沈黙が漂う。お気づきの通り、俺たちはただいまケンカ中だ。いや、ケンカというのは正しくないかもしれない。彼女が一方的に怒っていて、俺は途方に暮れているというのが正解かな。

 事の発端は一個のプリン。彼女が買ってきて冷蔵庫に入れていたものだ。それをお風呂上がりの俺が食べてしまった。ここだけ聞くと全面的に俺が悪い。でも、少しだけ言い訳をさせてもらうと、俺はプリンが二つあると思っていたのだ。後ろに隠れていた同じ形のそれがまさかヨーグルトだなんて想像できる?

「あぁ、あい、プリン買っておいてくれたんだ。おっ、二つあるじゃん。一個貰おうっと」と美味しくいただいている最中に、それを見つけた彼女の怒りが爆発したという訳だ。

 誓って言うと、俺は一つしかないものは基本的に食べない。食にそれほど興味がないというのが大きいが、俺はあいが美味しそうに食べている顔が好きなんだ。だから彼女が食べているものを一口貰うだけで満足できるし、どうしても欲しいものがあったら自分で買ってくる。
 あいも俺の性格はよく知っているはずなのに、今日に限ってどうしてここまで怒っているのだろう。そこまで考えると、何が理由があるんじゃないかと思い至った。彼女がここまで不機嫌になる訳って何だ?

 こたつの前で膝を抱えているあいに目を遣る。目は俯き、口をきゅっと結んだ姿はとても寂しそうに見えた。と、頭をかすめたのはここ最近のスケジュール。映画の宣伝に番組のPR。グループで活動することの多い俺たちだけど、最近は個人の仕事が半端じゃなく多かった。

 特に俺は地方へ行ったり個別に取材を受けたりと、それこそ目の回るような忙しさだったのだ。煽りを受けるのはもちろんプライベートで、家に着くのは深夜の二時三時を余裕で回り、翌朝八時には半分寝ながら家を出発するという日々が続いていた。その間彼女が心配そうに俺を見てくれていたのは知っている。でも余裕の無かった俺は、それに甘えてただ眠りに帰るだけの毎日を過ごしていた。

 そりゃ、あいも怒るわけだ。彼女はプリンを食べたことを怒ったのではない。それはただのきっかけで、俺のことを心配する気持ちが怒りとして表現されただけ。現に視界に入る彼女は悲しそうに見えるのだから。

「おいで」

 できるだけ柔らかく微笑んで彼女に言葉を投げかける。肩をピクリと震わせたあいの視線が俺をとらえた。

「あい、おいで」

 少しだけ腰の上がった彼女を後押しするようにもう一度誘いを投げかける。そして容赦無く飛び込んできた愛しい温もり。その勢いに押されて、座っていたソファーの上に二人で転がった。

「プリン食べちゃってごめんね」

 プリンのことはもう怒ってないだろうけれど、きちんと謝ったのは俺のケジメだ。

「それから、心配してくれてありがと」

 俺の上に乗っかって、ふるふると首を振る彼女の頭をゆっくり撫でながら呟く。俺に抱きつく腕の力があいの返事だろう。

「ねぇ、俺あいが足んないの。補充させて?」

 自分の声に思わず驚く。こんなに欲を含んだ声になるなんて。自覚してなかったけれど、彼女不足は深刻みたいだ。

「……私も、和が足りないよ」

 体を離したあいが潤んだ瞳を落とす。同じ気持ちなんだって、俺の中の熱が大きく膨らむのを感じた。そしてどちらからともなく重ねた唇。伝え合う熱もお互いを行き来する液体も、一つになれるくらいとけ合えればいいのに。そして、俺たちは言葉もなくお互いを求め合った。


 きみ不足が深刻です。

 だからもっと側に行かせて。俺しか進めないその場所に。


(ニノ、ちょっとは仕事落ち着いたの?)
(うん。映画が公開になって、ちょっとマシになったかな)
(そっか。良かったー。あいがずっと寂しそうだったからね)
(……あいさん、そうだったの?)
(っ! ニヤニヤしながら聞かないでよ!)
(いやもう、ニノが現場にいない時の落ち込みようったら見てられなかったよな)
(ちょっと潤くん!!)
(ホントホント。俺が代わりに慰めてあげようかと思ったもん)
(それは間に合ってますー。ほら、あいこっちおいで)
(こらっ! しれっと抱きしめるんじゃないよ!)
(ははは! いつも通りになったみたいで良かったんじゃない?)

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