「君に似合うのは一生僕だけ」
title by EVER GREEN



 時刻はただいま午後16時半。普段は仕事してる時間だけれど、今日はちょっとしたイベントに参加したくて中抜けをさせてもらった。マネージャーの元さんには渋い顔されたけれど、最終的には「仕方ないな」と許して貰えた。大事にするなって釘は刺されたけどね。

 そう言うわけで、俺は今とある公園にいる。事前に参加申し込みをしているから、主催者さんが配慮してくれたのだろう。受付を済ませると、テントで作った関係者席に案内された。

「二宮さん、本当に今回ご参加いただけるんですか?」

 落ち着かないのか、目をきょろきょろさせたスタッフさんに質問される。

「ご迷惑で無ければ参加させてください」

 微笑んで頭を下げると、「迷惑だなんてとんでもない! とても有り難いです」と恐縮された。

 今回のイベントは1月31日の『愛妻の日』にちなんだものだ。1月31日の1をアルファベットの「アイ」31を「サイ」と読み、徐々に広まってきているらしい。日頃言えない奥さんへの愛や感謝の言葉を特設ステージの上で叫んで想いを伝えるというイベントだ。本当はこっそり参加したかったのだけれど、映像に残るし騒ぎになってもいけないということで、きちんと事務所を通じて申し込んだ。

 俺自身は、あいに愛を伝えることに何の恥じらいもない。できることなら四六時中側にいて愛を囁いていたいくらいだ。でも、こういう仕事をしている以上、それは叶わないもので。それならば、一生に一回くらい派手に叫んでもいいかなと思ったんだ。

「妻の驚く顔が楽しみです」

 俺の言葉を聞いたスタッフさんはホッとしたような表情を浮かべ、イベントの最終打ち合わせを始めた。


 イベントは順調に進み、参加者は思い思いに大切な奥さんへの愛を叫んでいる。中には言いながら泣き出しちゃう人もいて、会場が温かい空気に包まれている。愛する人を思う気持ちがそうさせるのかもしれない。

「それでは、本日のスペシャルゲストの登場です!」

 司会者の呼び込みに応じて、拍手が湧き起こる。それを合図に、俺はステージへ足を進めた。

「こんばんは。お邪魔します」

 予想すらしていなかったのだろう。俺の登場に辺りを静けさが支配する。それも束の間。次の瞬間歓声や拍手、どよめきなどで、マイクを通しても話ができないくらい騒然となった。

「では改めましてご紹介致します。嵐の二宮和也さんです」

 紹介されてぺこりと頭を下げる。本当はこんな大げさじゃなくて、さらっと叫んで帰る予定だったんだけどと少し申し訳ない気持ちになった。

「参加を決められた理由を教えていただけますか?」

 これだけは質問させて欲しいと言われていたので、用意していた答えを口にする。

「愛妻家を自負している私としては、参加しなければと思いまして」

 会場から「ひゅーひゅー」という声が上がったので、手を挙げて応えた。

「それでは、叫んでいただきましょう。お願いします」

 司会の方が袖に下がり、ステージ上に一人になる。一瞬目を閉じて小さく息をはいた。

「あい、君に似合うのは一生僕だけだよ」

 最後にウインクをとばすと「キャー!」という悲鳴のような歓声がそこかしこから上がった。

「二宮さん……さすがです。聞いている私の方が恥ずかしいです」

 司会者さんが少し赤らめた頬で再登壇する。

「それでは、皆さん、愛しい奥さんによろしくお伝えください」


 そう言い残してステージを後にした。元さんの待つ車へ戻ると一部始終を見ていたのか、呆れたような溜息を落とされた。

「お前なぁ……。今度ラブストーリーの仕事、とってくるぞ」

 皮肉混じりの言葉に無邪気な笑顔で返す。

「相手役は、あいでお願いね」

 さらに深くなった溜息に俺はこみ上げる笑いを隠せなかった。


「ただいま」

 仕事を終えて帰宅すると、先に帰っていたあいが玄関まで出迎えてくれる。差し出された唇を軽く重ねて靴を脱ぐ。

「あい、プレゼント」

 イベントに参加して貰ったチューリップを彼女へ手渡す。

「わぁ、キレイ。でも、突然どうしたの?」

 不思議そうに首を傾げる彼女が可愛くて、花束ごと腕の中に閉じ込める。

「俺、愛妻家だから」

 脈絡のない言葉を訝しげに聞くあいの頭にキスを落とす。少し体を離して視線を絡め取った。

「あい、愛してるよ」

 普段はこんなストレートな言葉はなかなか言わないけれど、今日はやっぱり伝えたくて。真っ赤に染まった彼女にそっとキスをした。

「私だって……愛してる」

 花束を手にしたあいが恥ずかしそうに呟くから、今度は彼女の奥まで入り込む深い口づけをした。


 君に似合うのは一生僕だけ。

 離せないから覚悟して。


(ニノ、見たぜ。愛妻の日のイベント)
(え? 何の話?)
(奥さんへの愛を叫ぶってイベント。ほら、これだよ)
(ちょっ! 潤くんがなんで映像持ってんの!?)
(元さんに貰った。見てるこっちが恥ずかしくなるわ)
(何なの、これ。ニノ、すげぇな)
(……これってさ、牽制も入ってるでしょ?)
(ね。あいは俺の奥さんだよって)
(なっ! ……入ってないことも、ない)
(あら、素直なニノちゃん可愛いー!)
(うるせぇ! ……だってあいもてるんだもん)
(心配しなくても、あいはニノ一筋だって)
(そうそう。いつまでたってもラブラブなくせに)
(で、あいはこれに参加したこと知ってるの?)
(……言ってない)
(知ったら、めっちゃ恥ずかしがるだろうなぁ)
(口きいてくれなくなるかもよ?)
(……話してくれるまで啼かせるからいい)
(こら、もっと平和的な解決をしなさい)
(降参するまで愛を囁く……?)
(もう、それでいいよ……。あいに忠告しとこ)

prev / next
better tomorrow